赤いバンダナ
ミニダックスは胸当てがトレードマークだった。黒ラブの吟(ギン)は赤いバンダナがよく似合った。
畑へ出かけるときも、常に首にバンダナをしている。
畑へ行くと、広々とした景色が好きなのか、吟はよく遠くを眺めて座っていることが多かった。
まるで真っ黒なお地蔵さんのようで、赤いバンダナはさしずめお地蔵さんのよだれかけ。吟は子供にもやさしく、決して噛むようなことはしなかった。ただ黙って子供の様子を見守る。が、犬を知らない子供は、吟が真っ黒で大きいというだけで、怖い、と言って逃げ出した。
散歩に行くと、さまざまな犬種と出会う。吟の場合は小型犬に大人気だった。
近くで飼われているマルチーズのベルちゃんは吟のことが大好きで、出会うとちぎれんばかりに尻尾を振った。飼い主が引き離そうとすると、悲しそうな鳴き声を上げていつまでも後ろを振り返り振り返り、家へ帰っていった。夫は気が向くと、吟を連れて朝の散歩を楽しんだ。
私は夜更かしがたたって、たいがい夢の中。春先からは畑の世話でミニダックスとともに畑で草むしりやら、剪定と施肥、水やりなどに明け暮れていた。
あるとき、突然ケイタイに電話がかかってきた。
「車で迎えにきてくれ。ちょっと怪我をして、歩けないから」
どうしたことかと迎えに行くと、公園のベンチに座る夫と、その横でおとなしくお座りをしている吟がいた。
じつは、散歩の途中で雑種犬が不意に現れて、がぶりと夫の脚を噛んだ。かなり深く牙が食い込んで出血もした。それを見ていた吟が、ものすごい形相で雑種犬に飛びかかったという。組み伏せる格好で、牙をむき出しにして威嚇する様子は、別の犬かと思うほど獰猛な顔つきだったという。
そこへ、雑種犬の飼い主がやってきて、血相を変える。
まるで吟が、雑種犬を襲っている光景である。
「その黒い犬を早くどけてくれ」
「そちらの犬が先に襲いかかって、私の脚を噛んだので」
夫が赤い血の流れた脛を見せると、相手は平謝りに謝って、犬を引きずるようにして家の中へ引っ込んだという。
飼い主の窮地を救うのは、自分の使命だと思ったのだろうか。あるいは突然目覚めた本能が、襲われたら襲い返せと反応したのだろうか。
吟は散歩のお伴と護衛役、年老いた父の添い寝役に、兄犬の遊び相手と、いろいろな役割をこなす毎日だ。
次回更新は8月24日(月)、19時の予定です。
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