【前回の記事を読む】81歳の父が脳梗塞で倒れた時、一緒に家にいたのは私の夫だけだった。母も私もいないから、夫は保険証の場所さえ分からず…あとで医師から「婿さんは」と…
第三走者 吟(ラブラドール・レトリバー) 平成十四年~平成三十年
破壊工作員
吟(ギン)は、幼い頃とにかくよく遊んだ。
兄犬のミニダックスが、犬らしからぬ人間もどきの暮らしぶりだったので、吟も当然のごとく兄を真似た。
夜は人間と一緒にベッドで寝る。
私がどこかへ出かけるときは、一緒に車に乗って出かける。
ミニダックスがそうだったように、吟も歯が生え始めの頃は玩具(おもちゃ)をよく噛んだ。
与える玩具は、ゴム製の笛付きのドーナッツであったり、ゴム製のダンベルであったり、布製の人形や結んだロープもあり、噛み応え十分の硬い骨もあった。
問題は、脚の短いミニダックスと、脚が伸びて兄を跨ぐほどになった吟が、同じ玩具を奪い合うことだった。
いくつもあるのだからそれぞれが好きなもので遊べばいいのに、なぜか二匹そろって同じ玩具で遊びたがる。奪い合いになって、本気で追いかけっこをする。
そのうちに、吟の噛む力が強くなったのか、玩具という玩具はほとんどが半分壊れた形で、そこら辺に放り出してあることが多くなった。
兄犬が遊ぶ物は、当然自分も遊んでいいのだ、と吟は思ったようだ。
兄犬お気に入りの魔女の人形は、吟がしばらく遊ぶと詰め物の綿があちこちからはみ出る始末。ピューピュー鳴る笛付きの玩具はいつしか音が鳴らなくなる。ついでに、どこへ行くにもお気に入りを持っていくので、とんでもないときに庭の片隅で泥だらけで発見されることもあった。
あるとき、あまりに二匹で奪い合いをするので、こちらもつい大きな声を出して怒ってしまう。
「ふたりとも、いい加減にしなさい!」
そんなとき、兄犬が悲しそうな顔をしてこちらを見る。
「僕が悪いんじゃない。何でもかんでも壊してしまう、こいつのほうを何とかしてくれ」 かくして吟は、破壊工作員と題したコラムに登場した。