【前回の記事を読む】「お金払っているのに、教えてくれない」遅刻した生徒達が廊下で騒ぎ始めた。私が“社長直伝の唸り”を浴びせると室長までもが…

4.そして進学教室の講師になった。

そして、T市を囲む山を舞台に実際にあった連合赤軍事件とか、過去、日本社会を揺るがせた事件(まだ書き直す機会を考えているので、これは内緒)を背景に、サンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島の監獄からの脱獄事件もからめ、更に全編を通じ、中々うまく行かない恋愛事件もサブテーマにしてと、てんこ盛りにしたのだから、困難を極め、二百枚くらい書き進んでも、冒頭で「消えた死体」を読者に自然に納得してもらう説明がどうしても思いつかなかった。

そんなことをしていた、ある日、T警察署の副署長をしていた叔父から電話がかかってきた。

「お前は一体何をしているのだ」と、いきなり𠮟りつけられた。何のことだ、と思ったら、T警察署の管内で、殺人未遂事件があって、その容疑者を捕まえたら、その男の車の名義が私になっていて、私の身元を調べたら副署長の甥だと判明し、部下がびっくりして報告しに来たとのこと。

えっ、まさか、と思ったが、スナックのママの愛人でその夫殺人未遂の容疑者は、「真面目な」山本だった。初めて、春夫さんとウマが合う理由を合点した。

私は、春夫さんの話は飛ばして、単に車を持っていなかった彼にタダで譲ってやっただけで、退職後は一切、付き合いはない、と弁解した。その話は山本の証言と一致したのか、すぐ納得してくれたが、「名義変更」をしなかったことを、子供の頃の私の「いい加減さ」まで引き合いに出して、それから散々責められた。

「とりあえず塾の先生をやっているけど、小説も書き始めた」

「おい、とりあえずとはなんだ。人生を舐めるんじゃない。そんなだからこんな事件に巻き込まれるんだ。真摯に塾の仕事に取り組まねばダメだ。お前のいい加減なところに、山本みたいな奴が寄ってくる理由があるんだ。ともかく、警察に呼ばれないようにしておくから、即、名義変更をするんだぞ」

今、思い出しながら書いていても、何でああまで言われなければならなかったのかと、少し怒りすら覚える。だが、子供の頃から、母と兄からモラルハラスメントを受け続けていたので、頭ごなしにどやしつけられると、すぐ、どうやって逃げようかとばかり考える癖がついていたのである。

だからこの時も、私はただただ「叔父に迷惑をかけないこと」しか頭に浮かばず、早速、山本と付き合いがある土建会社の従業員の一人に電話し、名義変更の書類作成の段取りを始めたのだった。