【前回記事を読む】寺院境内に土足で踏み込む英国人…境内に入る前、駐車場で車を降りたら履き物を脱ぐのがミャンマーの礼儀なのに。激しく抗議すると…

第1章 最後のフロンティア

OFFICE KOKUBU

お得意様の事業の成長に伴い、オフィスコクブにも変化が訪れた。顧問契約だけでなくほかにも数社の広告契約が決まるようになると、売上金の管理業務も必要になってきた。

現地の資金管理に関しては、日本人経営者と現地スタッフが揉めるケースがあることは聞いていた。そうした事故が当たり前と考える日本人経営者はミャンマー人に金庫の鍵を渡さない。実際、ミャンマー人に通帳を預けて持ち逃げされるケースも聞いていた。

すでにニンには事務所経費の現金出納帳を記載するように指示していたが、僕はそれに加えて金庫の鍵とナンバーを教えて現金の管理も担当させることにした。

「こういうことをミャンマー人に任せるなという人もいるが、今日からはニンに現金管理をお願いします」

僕もビザの更新や日本での事業で帰国することがあるので、現地での資金管理を任せられる人が必要だった。鍵を受け取ったニンは泣いていた。これだけのことで感激してくれるというのもミャンマーらしい出来事だったのかもしれない。

モヒンガー社への新規企画第二弾は、所属タレントのスキルアップ企画だった。

当時のミャンマーでは、なぜかゾンビ映画とファミリー向けコメディ映画が人気でいつもどこかで上映していた。

僕はしばしば、観客は映画のどんなシーンでうけているのかを調べに行った。いつも通り、なんてことのない場面で客席は大うけしていた。

映画館で感じた疑問を何人かのミャンマー人の友人に聞いてみると、ある人は「普通の生活に楽しいことがないのです」と言った。またある人は「この国で映画は自由に撮れないのです。検閲があるから」と答えた。

確かにそうかもしれなかった。ミャンマーではわずか数年前まで実際に密告制度が存在していた。要は映画やドラマで国軍を批判するような作品は上映できなかったのである。

結局、国内で製作される作品は、政治的に当たり障りのない、ホラーやコメディだけに製作許可が下りていたのかもしれない。ほかにも僕は普通に観たい映画も探して観に行った。そのなかにミャンマーのアクション映画があった。

映画を観ているうちに、僕にはあるアイデアがひらめいた。モヒンガー社の俳優に、武道経験のある僕自身が多少指導するだけでもほかの俳優と差別化が図れるのではないかと思い付いたのだ。ひょっとするとミャンマー映画界で一目置かれる存在になれるかもしれない。