【前回の記事を読む】「幽霊でもいいから、この手に抱かせてくれ」孫を事故で失った老人が、会って2回目の女性に語っているうちに表情が変わり始め…

ホームランとフォーマルハウト

ユカちゃんが嬌声を上げた。二人してそちらへ目をやった。そういえば、声を聞いたのはこれが初めてだ。お兄ちゃんが楽しいと自分も嬉しくなるらしい。一人っ子のわたしにはなかった感情だけれど、彼女の気持ちはとてもよくわかる。

「思えばワシは、そんなふうに求めてばかりいた。いつまでもこんなでは、あの子も安らかに眠れないだろう。結局あの子を縛りつけていたのは、ワシ自身だったということかもしれん」

「縛りつけた……んですか?」

この比喩はわからなかった。

「ああ。だからもう求めるのはやめて、与えようと思う」

「与える……」

益々わからない。

「忘れるってことですか?」

「そうじゃない。忘れるんじゃない、与えるんだ、安息を。見えなくても繋がっていると信じれば、気持ちは安らぐだろう。ワシだけじゃない、あの子も同じだ」

難解で、言葉に表すのは難しいけれど、彼の言わんとしているところは汲み取れる。つまり彼は、お孫さんを取り戻したいという強い想いを捨てることで、双方に平安が訪れると考えているのだろう。時をかけても喪失感が癒えないのなら、辛くともそうするしかない。

「すまなかった、空木さん。年寄りのたわごとに付き合わせて」

「いえ、いいんです」

得心したとは言い難い。聞いてあげるべきことが、まだあるような気がする。でも今は、心の針が帰宅に振れきっている。あの子たちだって、無事に帰さなきゃいけない。あたりはすっかり夜だ。

わたしはようやく腰を上げた。庭ではしゃぐ子供たちを見止め、そちらに足を向ける。

「もし良かったら」

追うようにして水口さんの声が届いた。振り向き、「はい」と返事をする。

「また遊びに来んかね。あの子たちも来たいと言っとるし」

嫌だな、とは思わなかった。来たいわけでもないので、「ええ、まあ」と中途半端な返事でお茶を濁した。

「君たち、帰るわよ」