【前回の記事を読む】「あんたたちと一緒にしないで!」…1人暮らしの母に役所手続きを頼むと口調が豹変…生前の父は「俺が死んだら施設に入れろ」と言っていて…
第1章 違和感
コミュニティと母
とにかく母が少しずつ外に出歩く機会が増えてきたので私たちは安心した。
母がこの調子で一人暮らしに順応できるよう、何らかのコミュニティに母が属することを私たちは目指した。社会との繋がりを保つことが認知症などの予防になると考えていたからだ。
母は昔、書道やエレクトーンをやっていたので、母が通えそうな書道教室やエレクトーン教室のパンフレットを渡し、勧めた。
また、近くのコミュニティセンターで高齢者が集まるイベントが週二、三回開催されていることを知った。そこに参加すれば同年代で母と似たような境遇の友達ができるかもしれないと思い、母を連れてコミュニティセンターに行ってみた。
残念ながらその日は高齢者向けのイベントはなかったが、イベント担当者と会うことはできた。
担当者に母と私たちの自己紹介をすると、担当者は驚いた。
そしてある事実を告げてくれた。なんと父が生前にここに来ており、母の名前と住所、一人残される母をよろしく頼むと依頼していたのだ。
センター側は快諾したが父の死期を知る術はないため、動きようがなかった。そして今日、父から何も知らされていない子どもがその母を連れて現れたのだ。
何という巡り合わせだろうか、さぞかし母も安心したことだろう。一連の話を聞いて、よろしく頼むことを伝えて家に戻った。
まさかの巡り合わせに、やや興奮気味の妻が母に言った。
「お父さんが死ぬ前にお母さんのことを話していたんだって。よかったね」
「あ、お父さんがね。そうね……ありがたいわね」
妻とは対照的に、少し間の抜けた返事をする母。何か気にかかる様子の妻。
「イベントの日程表を貰ってきたから、カレンダーに書いとくね」
「あぁ、ありがとう」
母にはノートサイズのカレンダーに様々な予定を記入する習慣があった。
そこには通院予定日や公的年金振込日、固定資産の支払い日などがメモされていた。最近は妻がそこに私たちが母の家を訪れる日を書き込んでおり、コミュニティセンターのイベント日も併せて記入した。
「今週の平日、早速イベントがあるから参加してきなね」
「え……うん」
「お父さんも話してくれてたんだから、行ったほうがいいよ」
「そうね」
母の乗り気でない様子が伝わってくる。
父の遺志に報いようと母に伝え、母の家を後にした。