一息つこうと入った給湯室で、先輩と顔を合わせる。
珍しいことではないのに、タイムリーだと思ってしまうのは未返信のメッセージのせいか。
聞いた?と聞かれてなんのことかと首を傾げた私に、先輩はむしろ顔を輝かせた。
「ラジオだよ、ラジオ」
はあ、と溜息混じりに返事をすれば輝いたその目で嬉々として話し始める。
「一護くんと詠人くんのケミがラジオ出て趣味の話したんだよ!」
「そうなんですか……」
「もう、志乃葉さんったらチェックしないと」
いつの間にかファンだと認定されているらしい。そういうわけではないが、職場での関係上そうとも言いづらい。
はあ、と相槌(あいづち)を打てば先輩は続けた。
「詠人くんの趣味が短歌って知ってた!? なんか読む……詠む? 見るのが好きなんだって。あんまりそういう趣味の話聞かなかったから驚いちゃった」
話を続ける先輩にうまく頷けない。誤魔化すようにカップにお茶を注(そそ)ぐ。
「ちょっと辛かった時期に、なんかアマチュアの人の短歌読んで元気出してたんだって」
うわ。なんか聞いてて恥ずかしいぞこれ。乾いた喉はひと煽りでお茶を飲み干せた。
「本とかじゃなくて、ネットで見てたんですけどね、って言ってて親近感湧いた。なんていうの? ちょっとお高いとこあるかな、と思ってたから」
聞けば思い出してしまう。根元まで鮮やかなミルクティーの色と、顔に陰影を作る高い鼻。
自販機のライトさえ、スポットライトのようにしてしまうあの容姿。
「創ってみたいけど見る側なのかな、創る側に憧れがあるみたいなこと言ってて、この人もこんなこと思うんだ、って思っちゃった」
饒舌(じょうぜつ)な先輩に相槌が打てない。
「詠人くんにしては珍しく饒舌で、なんかかわいかった」
聞きたかった。
「……志乃葉さん? 顔隠してどうしたの?」
そう思ってしまうくらいには彼に興味を持ってしまっているのかもしれない。
「すみません。鼻が痒かったです」
ふうん、と。話し終えて満足したのか、先輩は先に給湯室を出ていった。
飲み終えたばかりのカップの底を見る。自分が何色のお茶を飲んでいたか、もう思い出せなかった。