【前回の記事を読む】【短歌女子】都内一人暮らし。交際費に割けるお金は減り、周りから人がいなくなった。行き着いた消耗しない趣味が短歌だった。
4 人知れずこそ
深呼吸を一つ。白く染まった息を見送って、意を決した。
「あの、すみません」
集団に話しかけると、案の定ぎょっと驚かれた。
仲間だと思われている様子はない。それでもここまで来てしまったのだ。私は言葉を続ける。
「惨状院さんって……」
「俺です!」
その声に視線で集団を探ると、小さく手を挙げた男性が前に出てきた。
黒髪でワイシャツを着た、どこの会社の営業にもいそうな人だった。私を見てやっぱり驚いた顔をした。
「若っ!? 女の子!? えっ、誰!?」
矢継ぎ早なその言葉が、ネットと同じで笑ってしまった。画面の中の知っている惨状院さんの雰囲気そのものだ。
「あの、生姜を赤く染め衛門です」
名乗った私に、うわあ、と惨状院さんが頭を抱えた。
「えっ、染めさん!? 女の子だったの!?」
周りの人に私のSNSをフォローしている人がいたようで、次々にハンドルネームを名乗ってくれた。
「成人してるよね!? 大丈夫!? 何歳!?」
「ハタチです」
わかっ!
答えれば周りの人々の声が揃った。
「なんかすみません、染め衛門って名前と普段の内容からてっきり男で、三十歳前後くらいの子とばかり……」
そう言いながら申し訳なさそうに頭をかく。
そうか、男の名前だと思われていたか。
アカウント名に関しては我ながらふざけてしまったので、誤解されても無理はないと思う。ただ、短歌が好きな仲間には気付いてほしかった。平安時代の女流歌人から取った名前だと。
「まだ来てない人もいるし、これから集まってくる人に女性もいるといいんですが……」
惨状院さんがスマホを開いて時間を確認した。
十九時まであと五分。
「……ちょっと確認したいことがあって、その自販機の横でちょっとスマホ触ってますね」
ちょっと気まずい。思わず『ちょっと』なんて多用してしまうぐらいには。