5 思ひそめしか

「よかったあ、間に合って」

駅構内を走り抜けて広い公園に着くと、彼は帽子を被り直して髪の毛を整えた。

その一瞬に見えた髪の毛はミルクティーの色。本当にテレビで見たあの人なのかと唾を飲む。

「何飲みます? 飲み物は甘い派でしたよね、カフェオレでいいですか?」

私をベンチに座らせると、すぐ近くの自動販売機に歩み寄った。薄暗い公園で、自販機の光の前での背中が影になる。走って上がった息を整える。

「いや、イチゴ牛乳の方がお好きそうですね?」

その言葉まで聞いて、やっと頭の中と上がった息が整った。

「いやいやいや、えーっと……あの、あなた」

呼びかけ方が分からない。歯切れの悪かった私とは反対に、低い声は流暢(りゅうちょう)だった。

「はい? フォロワーの歌仙敷ですよ」

「え、あ、えっとあなたが?」

「そうですってば、染め衛門さん」

立ち上がってこちらに戻ってきた彼の手には、カフェオレとイチゴ牛乳があった。

「どっちもお好きそうですが、どっちにします?」

画面の中で知っていた顔。こんな近くには知らない顔。その表情はどこか得意げだ。

自販機を背にしたその顔に、高い鼻が陰影を作っている。自販機の光があまりに綺麗にその髪の毛を照らしていて、息を呑んだ。

おそるおそる私がイチゴ牛乳を選ぶと、開けて渡してくれた。

それから当たり前のように隣に座ると、カフェオレを開けて一口飲んで──その飲み口が綺麗で、見とれてしまう。

遠くに喧騒。

近くにカラスの鳴き声。

街の匂いではない、いい匂いがする。

緊張で五感が敏感になる。

脳が鼓動の速さに追い付かない。もっと回転して、この沈黙を破る言葉を出してほしい。

沈黙は重く、破れない。首を動かすのも躊躇(ためら)う重さ。

何せ、何せ。

「……」

隣にはテレビで見た整った顔がある。

鼻は高いし、下げたマスクで隠れているけれど顎も小さい。というか顔が小さい。

髪の毛なんて私より細く、枝毛なんてなさそうに夜風になびいている。

こんな綺麗な髪を撫でられるのなら、風も吹き甲斐があるってものだろう。

見惚れるなと、口を開いた。見惚れるな、自惚れるな。

冷静に話しかけて事態を把握しよう。──そう思ったのに。

 

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