【前回の記事を読む】「影法師……」とひとり呟いた瞬間、孤独な帰り道が“詩の創作の場”に変わる

3 立ちにけり

テレビの画面を点けると、隣の県の観光地グルメ特集が放送されていた。

鮮やかな画面で一杯三千円の海鮮丼が紹介されている。食べている姿に見覚えがあった。気が付いたのは、髪の色のせいだろう。二色の茶色。昨日見たアイドルのうちの二人だ。

二人は海鮮丼を前にしていた。最初に喋ったのは、赤みを帯びた茶色の髪の毛の方だった。

「いくら山盛りですね! うわあ、キラキラしてる!」

目を光らせる彼の髪の色を、アイスティー色だと先輩は言っていた。彼がにっと笑ってから、カメラのピントが隣に動く。

「噛みしめると、舌の上で海老がじわ〜っと甘く溶けて絶品です」

柔らかい物言いに丁寧に思えるコメント。こっちの方が、好みだ。そう思ったコメントを言った茶色の名前を知っている。

髪の毛の色はミルクティー。頬に手を当てているのは、昨夜テレビで歌を歌っていた男の子だった。

「この豪華な海鮮の量で三千円は驚きです!」

顔良いな。高級丼が似合うお貴族様だ。

そんなすぐ食べ終わっちゃう丼で三千円なら、近所のコンビニで二千円分の駄菓子を買って家で一晩パーティーをしたい。

美味しいものを食べ終わるのも、夢から覚めるのも、夜が明けるのも、遅い方がいい。

少なくともその海鮮丼を食べる人はこんな価値観なんかではないんだろうな。スルメのタイムパフォーマンスばっかり気にするような価値観。

テレビの向こうはやはり別世界だ。そう思いながらいつものお弁当の蓋を開けた。

インターネットは自分のいたい世界が選べるから、惨めな思いをせずに済む。

誰に言われたわけでもない。なのに自分を惨めだと思ってしまって、更にいたたまれなくなってしまう。

自分の世界と立ち位置を確認したくて、スマートフォンに手を伸ばした。

自分が今食べているお弁当の蓋を閉じて写真を撮ると、『生姜を赤く染め衛門』のアカウントを開いて投稿画面を開く。それから文字を打っていく。

『テレビには豪華な海鮮丼。だけど私はスーパーのワンコイン弁当。三千円あったらワンコインで弁当を買って、パーティーできるくらい駄菓子を買って千円分は家飲み用のお酒でも買う』

負け犬みたいだ。けれど負け犬の遠吠えだって、聞き方を変えれば歌だろう。

負け惜しみだって、文字になれば本の一節でもおかしくないだろう。いや、まあ、作家じゃないけど。

とはいえ今まで短歌以外にこういった感情を投稿しても、写真は添えることがなかった。不慣れさのある画面映えしない写真だが、まあこれも日常ということで。

テレビのテロップには『キケロストアーズから一護くんと詠人くんが美味しいお店を紹介!』と書いてある。

いつもありがとう弁当。

画面の海鮮丼よりお前の方が素晴らしいよ。

なんて写真と目の前の弁当にうんうんと頷く。