【前回の記事を読む】私は思わず息を呑んだ。陰影のある高い鼻に低い声。いい匂いがするし顔は小さい。何、この状況……どうして夜の公園で…
5 思ひそめしか
「あへえっ……ぐっしゅん」
夜風は私には意地悪だった。
最悪だ。喋ろうとした途端、鼻をくすぐられた。
見惚れてすっかり油断していた。取り繕いのないくしゃみは水気があった。最悪だ。
「夜風さえ、遊び相手を選ぶのか……」
鼻を隠しながらトレンチコートのポケットからティッシュを取り出しながら呟くと、隣で空気が揺れた。
「染め衛門さんの生配信だ!」
「生配信て」
鼻水を拭って、跳ねるような声に釣られて私も笑ってしまった。
夜風が私にも優しくなった。
ああ、やっと話せそうだ。
「……歌仙敷さんって、なんかグループのテレビの人ですよね?」
やっと話せたのに失礼な言い方になってしまった。
「すごい曖昧な言い方しますね」
しまった、と思ったけれど彼の持つ缶ジュースは震える肩に合わせてちゃんぷんと揺れた音がしたから大丈夫なようだった。
ああそうだ、この言葉の掛け合い。ネットで確かに掛け合ったボタンと同じだ。
そう思えば返事は迷わずすんなりと出た。
「すみません、あんまりテレビ見なくて」
「だからテレビに出るの増やしたんですよ」
──は?
こっちを向いている瞳はどんぐりの色なんかじゃなかった。自販機と公園の頼りない明りでも光る、ブラウンのダイヤモンド。