「鯉は水が無くなったくらいじゃ諦めやせん。いずれは龍に成ろうって奴ですからね」
秀次が桶を受け取ってそう受けあった。桶を抱えての石動の道中を想像すれば、思わず笑えてくる。
『本当に太平と似てやがる。外見(そとみ)も外聞も気にしねえ』そこで気がついた。
『そうじゃねえ。石動さんは気にしてらんねえんだ』鯉を生きたまま持ってくる。石動にはその一心しか無いのだと。
それで、石動に籠を託した。
「ただし」魚を入れた後は必ず良く洗って陰干しにする。それだけは頼んだ。
「あら、蓬(よもぎ)ですか?」
五月が石動の手元をのぞき込んでいた。
蓬の葉を使うと魚臭さが取れる。そう教えられたから、途中でたっぷりと摘(つ)んできた。
「あら、そんなに強くしては潰れてしまいます。軽く揉み洗いをして、後は水に漬けてアクを抜くんです。あら、ずい分と薹(とう)の立った物まで。この時期は先葉の柔らかい物を二、三枚ですね」
「五月」
「はい、父上」
「わしは籠を洗っておる。蓬を洗っておるのではない」
「あら、まあ」
「うむ」
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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