でも、母親は働くことに全く興味がない権左の将来が心配で仕方がありませんでした。山の頂上には岩木山神社の本殿奥宮があり、八百万の神が祀られていましたが、困り果てたワニはいつも畑の仕事が終わると毎日のように麓に作られた分社にお参りに行き「何とか息子の権左が一人前に働くようになりますように!」とお願いに行くことが日課になっていました。
ところが、ある日、権左が布団に座りながらのんびり外の景色を眺めていると、母親の干しておいた洗濯物の間をそれはそれは美しい娘が通り過ぎました。岩木山神社の鳥居の方に登っていくのを目にした途端に、一目惚れの衝撃と言っていいのか、それまでの権左とは様子が変わってしまいました。
その日から今度は全く落ち着きが無くなって、日がな一日、家の中をウロウロし、足音がすると「もう一度あの女性がこの家の前を通ってくれはしまいか!」と必死に願うようになってしまいました。
今までざぶとん権左だったナマクラ男が岩木山神社まで登っていき、神主さんに「あの女の方は誰なんですか?」と尋ねるまでになってしまいました。
神主さんは「名前は確かつるこさんと言ったかなあ? はっきりしたことは分からんが、ごく最近、村の西の端にひとり住み着いたそうな! 村の衆はあまりにその娘が美しいので、狐の類たぐいが化けているのか、あるいは山の精の化身じゃないかなあ!と恐れておるようじゃが……」と教えてくれました。
権左は村の西の端まで行き、その娘が一人住んでいるという古くなって捨て置かれていたボロ家を尋ねました。
「突然に訪れてきてビックリされたと思っとるが、ワシはあなた様がワシの家の前を通りかかった時に雷に打たれたようになり、あなた様にその日以来、恋焦がれているんじゃ。これからは一生懸命働くよって、ワシの嫁様になってくれんか?」と唇を震わせながら必死に頼み込みました。
村には同じ年頃の男の若者たちが何人もいましたが、さすがに得体が知れないので様子見をしていました。権左は生まれつきの天邪鬼ですから思ったことはすぐに口に出してしまいます。ところが、その娘の口から出た言葉は不思議な内容でした。
「私はあるものを探しております。その探し物のことは他人様に尋ねるわけにはいきません。それを見つけるまで私は結婚はできませんし、見つけるまで探し続けないといけないのです」と言ったきり、小屋の扉をピシャリと閉めてしまいました。
権左はその日からまたまた恋煩いと共に、つるこさんの言っていた探し物が何なのか? 本人が具体的なことを何一つ教えてくれないので、全く見当も付きません。
権左にとっては悶々とする日々が続くことになりました。
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