だが、授業が始まると、そんな研修が少しも役に立たないことがすぐ分かった。後で知ることになるのだが、私の振り当てられた下町の教室は、前任者が授業崩壊の結果、辞めて行ったのだった。

架空の標準的な生徒を想定したマニュアルなど「自然」である中学生男子には通じるはずもなかった。

ヤンチャぞろいで、授業中のおしゃべりは止まず、板書していると黒板に消しゴムが飛んでくるし、パーティションがしなるほど蹴りあいながら、隣の教室の生徒と喧嘩したりしていた。

漸く、帰って静かになったと思ったら、下の雀荘のオバさんが、血相を変えて、怒鳴り込んで来る。

帰り際に花火を投げ込んでげらげら笑いながら逃げて行った、と涙を流しながら訴える。

M電器に新卒で入社してハラスメントにあって辞め、塾に入ってきた同僚は「これなら、大人にいじめられている方がマシだった」と言った。

私は大学院生の時、病院を退院した後、郷里で塾の講師のアルバイトをしたことがあった。生まれて初めて教壇に立ち、中三生、二十人ばかりだったが、生徒の小声までよく聞こえ、それに一一反応していたら、授業が収拾がつかなくなってしまったことがあった。

しかし、あの時の生徒の方がまだマシで、人を揶揄ったりしても、ともかく自分の席に授業中座っていてくれた。だから、M電気の同僚の気持ちは分かったが、やはり大人のハラスメントの方が大変なのではないかと思っていた。土木現場では、消しゴムでなくスコップが飛んできたりした。

私は土木会社の経験で、一一反応したり弱気を見せたりすると、益々ハラスメントは加速することと、ともかく半年くらい耐えれば、必ず状況が変わることも知っていた。

そして私は土建会社の社長の怒鳴り方を近くで見ていて、その怒鳴り方を習得していた。

しかし、それは最後の手で、力でいきなり抑えれば、その反発も大きくなる。

次回更新は8月10日(月)、11時の予定です。

 

👉『好きでないことだけで生きて行く 』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】畳の上で変なことをしてくる兄…「息が臭い」と思ってると母がやって来た。…すると兄は慌てて手を離し、部屋から出て行った。

【注目記事】抱き上げられて寝室へ…彼は「泣かないで」と言いながらも、激しく求めてきて…指先で触れられるたび涙が止まらない。

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp