手紙にぽたぽたと雫が落ちる。

遥香が僕に最後に伝えたかったのは、怒りでも恨みでもなく、感謝だった。それなのに、僕は遥香を一人にして逃げてしまった。一人になって、親からも反対されて、どんなに苦しかっただろう。それなのに、一人で経験したことのない出産に立ち向かいながら、僕への感謝を書き連ねたのだ。

そのとき、僕はなにをしていた? 僕が故郷から必死に逃げようとしていたとき、遥香は必死に現実と闘っていたのだ。

そう思ったとき、ついに僕の涙腺は耐え切れずに崩壊した。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああー」

涙が次々と溢れて止まらない。人の家だということもはばからず、僕は大声を上げて泣いた。喉がぴりぴりとした痛みを伴っても、それでも泣き続けた。

ごめん、本当にごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。

僕は、遥香が言うような優しい人間なんかじゃない。遥香にとってはそうであっても、それは遥香が見ていた、僕を構成するほんの一角にすぎない。

遥香が救われたのも違う。救われたのは僕の方だ。サッカーを辞めて、自分の居場所がなくなったように感じて腐っていた。僕の方こそ、遥香にとって、自分は必要とされる存在なのだと思うことができた。自信がついた。いつだって遥香がいたから、僕は退屈しない毎日を過ごすことができた。

それなのに……。こんなに思ってくれていたのに……。

止めどなく溢れる涙をどうすることもできない僕の身体は、重力に従うように、崩れ落ちた。声にならない声を上げ、泣いて、泣いて、泣いた。

思えば、人を想って泣いたのはいつぶりだろう。

三年経っても遥香はなお、人が当たり前のように取る行動と感情を、それを失った僕に教えてくれる。どうしてそんなことができる? 僕は、ずっと遥香に支えられてばかりだ。この先、遥香を失った事実を知って、遥香の願い通り僕は前を向いて生きていけるのか? こんなふうに思う時点で、僕はまだ臆病なのだ。

リビングに戻ると、由紀子さんと遥香の祖母は、先ほどと同じ配置で座っていた。

「取り乱してしまってすみませんでした」

「いいえ」

優しい微笑みを向ける遥香の祖母に対し、由紀子さんはそれだけ言ったが、彼女の顔からはもう怒りの感情は消えていた。

「遥香は」由紀子さんが口を開く。

「遥香は、私から見ても幸せな人生だったと思う。

一人娘だから、私よりも先に死んだことをやっぱり最初は受け入れられなかったし、その原因を作ったあなたのことも恨んでいた。でもこの数日、あなたは遥香のことを想って足を運んで、自分の気持ちを言葉にして、泣いてくれた。完全にとは言い切れないけど、私は徐々にあなたを許したいと思う。あなたを許さないと、遥香にも怒られそうだしね」

由紀子さんは、初めて僕に笑顔を見せた。笑った顔は遥香によく似ていた。

次回更新は8月4日(火)、11時の予定です。

 

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