俳句・短歌 四季 歌集 2020.10.12 歌集「旅のしらべ・四季を詠う」より三首 歌集 旅のしらべ 四季を詠う 【第21回】 松下 正樹 季節に誘われ土地を巡る尊きいのちを三十一字に込める 最北の地で懸命に生きるウトウ、渚を目指していっせいに駆ける子亀……曇りなき目で見つめたいのちの輝きを綴る短歌集を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 音たかく夜空にあがる大花火 仰ぐ群衆のどよめきおこる 雨の朝 斑入りの筍竹林の 土を突き上げ出でて伸びゆく 竹の子は皮を被きて伸びゆけり 黒き斑紋あざやかなり
小説 『約束のアンブレラ』 【新連載】 由野 寿和 ずぶ濡れのまま仁王立ちしている少女――「しずく」…今にも消えそうな声でそう少女は言った 二〇〇三年の年末。猛烈な雨が、差しているビニール傘を氷のように叩きつけている。静岡県藤市にある藤山を局地的な大雨が襲っていた。静岡県警の鳥谷(とりたに)は手に持っていた新聞を口でくわえると、慌ててしゃがみ込んだ。泥でぬかるんだ足元に、大量の水が靴を侵食する感覚が襲った。「こんな雨の中、こんなところにいたら風邪をひいてしまう。ここは危険な場所だ。お嬢さん、名前は?」少女はずぶ濡れのままその場に仁王…
小説 『弔いの回想録』 【第6回】 松田 浩一 「仮にお前の父親が働けなくなったら? 高校卒業後のこともよく考えろ!」強く諭され…胸倉を掴んだ手に力が入らなくなった。 顧客は、バーやキャバレーで働く女性達である。男性客が好む衣装をシンガーミシン三台で仕立て、女性達の好みの生地を裁断して、ボタンもオリジナルのオーダーメイドで提供する洋装店である。自宅は洋装店の二階、トイレと風呂がなく脆弱な住居環境であった。幼少の頃にあった共同井戸は、昭和三十七年頃になくなり、商店街の各世帯に水道と都市ガスが入って、少しだけ文化的生活になった。脆弱な家屋は変わらない。トイレは、飲…