午後六時を過ぎた。気の早い秋の日はとっぷりと暮れ、広い庭のそこかしこからは虫のすだきが聞こえてくる。

夕空を彩った金星は、隣家の屋根の向こうにすでにその高度を落としていて、空の主役は秋の星座に代りつつあった。

秋は、星の数が少ない。アツシくんの説によると、銀河系の一番薄っぺらな部分を見ているからだという。

対照的に、夏は星が多く天の川も濃い。これは銀河系の中心がそちらにあるからで、写真集などにある、色鮮やかな星雲星団なんかもたくさん見えるそうだ。

知識の深さもさることながら、さっきから彼が口にする言葉の一つ一つが耳に痛い。

わたしこそが半人前のハーフであり、薄っぺらな人間だからだろう。

思い返してみても、人生の中で危機らしい危機に遭遇したことがなかった。アツシくんのように誰かを守ろうとしたこともなく、守られているって自覚すらなかった。

もうすぐ社会人になる年齢なのに、人としてはここにいる二人の子供以下だ。井戸から顔を半分だけ出して、近隣を俯瞰しただけでわかったつもりになっている世間知らずの蛙、それがわたしなのだ。

「あ、ほれ、南の空だ」

水口さんが、裏木戸のやや上あたりを指した。植え込みの低木の頂よりもやや高く、明るい星が一つ、寂しそうに瞬いていた。

「あれが?」

「フォーマルハウトだ」

答えたのはアツシくんだった。夏や冬のような華やかさのない、秋の夜空に置き忘れたように光る星。

件の星は、とりわけ褒めどころのない、何の変哲もない普通の星だった。

「秋の星座でただ一つの一等星だよ」

感慨深そうに水口さんが言う。相槌は打ったものの、だからなんなんだという気がして、返答に困った。

「おっしゃったみたいに、ポツンと一つだけで光っているんですね。何だか寂しそう」

精々こんな感想しか持てない。

「寂しくなんかないよ」

お愛想で打った見解は、アツシくんにあっさり否定された。

「どうして?」

水口さんも首をひねっている。無知が自分だけでないことで、ちょっとだけ救われた気がした。

次回更新は7月31日(金)、11時の予定です。

 

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