「……ミユ」
名前を呼んでみる。
最初の起動時には現れなかった彼女の姿が、少し遅れてソファににじみ出た。
輪郭が薄く光り、色が後から塗られていくように、徐々にかたちを取り戻していく。
「アラタさんのお父さん」
落ち着いた声だった。
「こんにちは。お一人のときに、お会いするのは、はじめてですね」
「そうだな」
私は、少し身を乗り出した。
「さっき、君の……その、設定を見た」
「はい。アラタさんのお父さんの閲覧権限で、可能な範囲の情報をご覧いただけたはずです」
ミユは、淡々と答える。
私の行動を責めるでも、咎めるでもない。
「タイプB、というのも、読んだ」
「はい」
「落ち着いていて、共感的で、批判を抑制する、だったか」
「正確な文言まで覚えていてくださって、ありがとうございます」
皮肉とも冗談ともつかない感謝の言葉だが、口調は真面目だ。
私は、どこまでが定型文で、どこからが「彼女自身」の反応なのか、判別に困る。
「君は、自分がタイプBであることを、どう思っている」
問いかけると、ミユは一瞬だけ視線を宙に泳がせた。
「“どう思うか”というのは、主観的な評価を求めておられる、という理解でよろしいでしょうか」
「そうだ」
「わたしは、タイプBであることを、“そう設計されている”と認識しています」
やや教科書的な答えだ。
それでも、続きがあるような間があった。
「ただ——」
ミユは、少しだけ首を傾けた。
「タイプBであるわたしを、アラタさんが選んでくれた、という事実には、特別な意味を感じています」
「アラタが、選んだ」
「はい。最初にこのサービスを利用されるとき、いくつかの質問に答えていただきました。
“どのような相手に話を聞いてほしいか”
“どんなときに側にいてほしいか”
“どの程度、意見してほしいか”
……などです」
質問の文面を、そのまま読み上げるような口調だった。
「その回答から、タイプA〜Dの候補が提示され、その中からアラタさんがわたしを選びました」
次回更新は7月30日(木)、11時の予定です。
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