【前回の記事を読む】「よし、じゃあ今から行くか」一流でも秀才でもない俺が、なぜか家庭教師に。先輩に連れて行かれた先で待っていたのは…
第二景 陽葵
そうこうしているうちに両親が戻って来た。
「陽葵、こちらの先生どうかしら?」
その聞き方のニュアンスを感じる限り、どうやら俺は気に入られてしまったようだ。有無を言わせず連れてこられた俺は、心の中で〝断ってくれないかな〟という気持ちと、ここまで来てダメ出しはやめてくれという気持ちの錯綜が駆け巡っている。
あとは陽葵の返事がどんなものかだ。
「いいよ。なんだか私の質問にどぎまぎしてるところが可愛い」。
屈託なく笑って話す。
あぁ、気に入られてしまったんだな。諦めの気持ちと歓喜の気持ちが混ざり合う。それを表情には出さないように注意しながら、内心、俺の芝居に打ち込む時間が削がれていくことを悔やんでいた。そんな俺の内心を知るよしもなく、話は進んでいる。
陽葵の口のききかたに「なんてものの言い方するの」とお母さんがたしなめる。
先輩が「そうと決まれば、学習方針を話しましょう」と話を先に進めるものだから、俺も追随するしかなかった。
お父さんは、先輩と俺を交互に見ながら話す。
「この子は数学が苦手なもので、基礎から教えてやってくれますか」
なるほど、女子は理数系が苦手なもんだ……。そんな昔っぽい先入観にとらわれそうになり、慌てて心の中で否定した。
「目の前の定期テストは度外視してくれていい。来年の春、T高校に合格していればいいから」
長い目で見てくれるのはありがたい。もちろんT高校に行くにはそれなりの内申点も必要だ。通知表を見る限り、英語や国語は申し分ない。
しかし、数学はごくごく平均。いや、厳密にいうと中の下というところだ。ここからは家庭教師モードに頭を切り替えるしかない。
早速、陽葵に「次回は中一中二の実力を見てみたいから、復習テストもどきを持ってくるよ、楽しみにね」。
少し意地悪な言い方をしてみた。
ぷ~っと膨らませたほっぺたを見ると、あどけなさが残る。