見上げると、上空に灰色に塗装された戦車のような大きさの機体が宙に浮いていた。
戦車と異なるのはキャタピラはなく、代わりに2本の不格好な脚がついていた。それだけではなく、機体の両側には腕のようなものまでついていて、大型のロボットのようであった。
それは足の底についているジェットエンジンを噴かしながら、垂直離着陸機のように西須の背後に着陸しようとしていた。
強風で舞い上がる砂埃で賽子のワンピースの裾がはためいた。
砂埃が落ち着くとようやく視界が開け、皆その異様な光景に仰天した。
その戦車もどきの不格好な手足のついたロボットの上部には戦闘機のように小さなキャノピーが取り付けられていたが、半円形の高強度透明樹脂の中にはスキンヘッドの男の頭部が据えられていたのである。
エンジン音がおさまると、そのロボットからワーグナーの『ワルキューレの騎行』が流れているのに気づいた。
「何これ……」
賽子の後ろで身を伏せていた麻利衣は目を丸くして驚愕していた。
「久しぶりだな。河原賽子」
男がニヤッと笑うと上下とも前歯を失っているのが見えた。
「はて、おまえのような出来損ないの玩具に知り合いはいないはずだが?」
男は怨念のこもった眼で賽子を睨みつけた。
「きさまのせいで体をバラバラにされた八重沢駿矢を忘れたとは言わさんぞ!」
「ああ、そう言えばそういう名前のポンコツがいたっけな。すっかり忘れていた」
「きさま……きさまに復讐するために俺がどんな思いで今まで耐えてきたか想像できるか?!
首だけになって倉庫の隅に長年放置されていた俺の恨みを!
確かに超能力(フォルス)では俺はきさまには歯が立たん。だが、最先端科学の威力を結集すれば、超能力(フォルス)に負けない力を手にすることができるのだと総裁がこの体を与えてくれたのだ。
この新しい体を使って、きさまが俺にしたように、きさまを今から八つ裂きにしてくれるわ!」
八重沢は再びエンジンを噴かした。その前に西須が立ちはだかった。
「まだ僕と賽子の決着はついていない。賽子は僕が倒す。おまえは引っ込んでろ」そう言って、西須は賽子の方に向き直った。
「賽子、決着をつけるぞ」
その時、ロボットの右手部分に取り付けられている高エネルギーレーザー兵器から青い光が放たれ、西須の体を包み込んだかと思うと、彼は一瞬で真っ黒こげとなり、丸太のように地面に倒れた。
「きゃあっ!」
麻利衣が叫んだ。
「逃げよう」
鍬下が麻利衣を連れて物陰に隠れた。
八重沢は巨体を揺らし、地面を響かせながら賽子に歩み寄り、その途中で西須の体を踏みつけ、彼の下半身を粉々に踏み潰した。
「こいつは昔から虫が好かなかったんだ。弱虫のくせに偉そうなことばかり言いやがって。きさまを倒すのは俺一人で十分だ。そしてその功績で俺は総裁にお褒めの言葉を頂くのだ!」
次回更新は7月18日(土)、21時の予定です。
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