クレマティオ・コンビナートは経営者が経済産業大臣と癒着して短期間で建設した一大工場群であったが、大臣が汚職で罷免となってからは経営が悪化し、最近遂に倒産してしまった。
高い煙突や冷却・蒸留塔がにょきにょきと聳え立ち、たくさんのパイプが繋がった金属製の建物が所狭しとひしめき合って建ち並んでおり、まるで未来都市にでも来たような錯覚を覚えるが、中には全く人けがなく、いっそう別世界のような雰囲気を醸し出していた。
賽子は迷いもせず、コンビナートの中心に向けて歩を進めた。鍬下は建物の陰に隠れながらその後に続いた。
しばらく歩いて行くと、目の前に1基の高い冷却塔が見える通りに出た。
見上げると、その塔の1番上の作業デッキに麻利衣が立ったまま縛りつけられているのが見えた。
「那花さん!」
鍬下が思わず声を出してしまった。それに気づいた麻利衣が大声で叫んだ。
「賽子さん、逃げて!」
すると周囲の建物の陰から十数人の青い迷彩服を着た兵士が現れ、賽子に自動小銃の銃口を向けた。兵士たちの背後に西須悠雅が悠然と現れ、不敵な笑みを見せた。
「約束通り来てやったぞ。バナナを返してもらおうか」
「子供のお使いじゃないんだ。はいそうですかと渡すわけにはいかない。幼い頃からのよしみではあるが、神撰の計画を妨害するおまえを生かしておくわけにはいかない」
「何故社会を転覆することにそんなにこだわるんだ。神撰の考えは間違っている。11年前、私にそう諭して脱走を促したのはおまえではなかったのか」
「脱走に失敗した僕に神撰は徹底した再教育を施した。安重糸の超能力(フォルス)による洗脳も行われたが、あの程度の力に影響されるほど僕は弱くない。
だが、神撰は世界中で行われている政治や戦争の陰で、多くの罪もない人々がどれだけ卑劣極まる方法で虐げられ、屠られているか見せてくれた。
今、この世の中を支配しているのは自己の栄光や名声にのみ捉われ、弱者の窮状を顧みようともしないさもしい偽善者ばかりだ。
あの連中が世の中を支配し続ける限り、おぞましい悲劇が永遠に繰り返されていくんだ。
だから僕は自分の力でこの世の中を変えようと決心した。僕のこの力は革命を起こすべく天から与えられたんだ。
それを邪魔するというならたとえおまえでも生かしておくわけにはいかない」
「ミイラ取りがミイラになるとはおまえのことだな。神撰こそ偽善者の集団ではないか」
「口争いはもうこの辺でいい。僕たちらしく、実力勝負といこうじゃないか。
おまえには1丁の拳銃では通用しないが、自動小銃15丁の一斉射撃ならどうかな?」
賽子は西須を鋭く睨みつけた。
「撃て!」
西須の号令とともに15人の兵士たちは一斉に賽子を狙って銃撃を開始した。
しかし、次の瞬間、上空から巨大なパイプが落下してきて、兵士たちは全員下敷きになってしまった。
次回更新は7月17日(金)、21時の予定です。
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