【前回の記事を読む】神社の地下20階から、黒焦げの遺体が10数体見つかった…宮司は行方不明。全焼した社務所の下に広がる“巨大施設”の正体は……
サイコ7――コンビナートの決闘
麻利衣はぽかんと口を開けて唖然としていた。
「賽子さんが私の家で? 何を言ってるんですか?」
「とぼけないでください! 隣の女性があなた方が同じ家に住んでいたと証言しているんですよ」
鍬下は苛ついて思わず大声を上げた。
「それってひょっとして天野のおばさんのことですか?」
「え? ああ」
「天野のおばさんは最近、アルツハイマー病と診断されて、ありもしない作り話ばかりしてるってこの間、母が言っていました。
認知症になるとメタ認知力が低下して、記憶の空白を埋めるためにありもしない作り話をしてしまう『作話』という症状が出てくることがあるんです。 だから私たちが一緒に住んでいたというのもおばさんの作話だと思います。
そもそも一緒に住んでいたら、私だって賽子さんにこんなに驚かされたりしなかったですよ」
鍬下は急に自分の調査に自信がなくなってきた。
「でも、僕は相泊の相愛園にまで行ってきて、松尾園長にまで話を聞いてきたんですよ。
15歳の時、那花家を出て施設に入った古葉月渚は観音岩から海へ身を投げたって。
それは賽子さん、あなたのことでしょう? 一体その後、どうやって暮らしていたんですか?」
「鍬下、おまえはこの前から何か勘違いをしているようだが、以前も言ったとおり、私は古葉月渚などではない」
賽子は冷然として答えた。
「そんな……だって、僕は聞いたんだ。河原賽子って名前は……」
その時、賽子が突然振り向いて鍬下を鋭く睨みつけた。彼女の瞳が青く光ったように彼には見えた。彼は必死で何か言おうとしたが、声が出ない。
「あほは、あほははふへた」
彼は外れた顎を必死に戻そうとしたがなかなかうまくいかない。
「大丈夫ですか? 鍬下さん」
麻利衣も懸命に手伝ったが、顎は元には戻らなかった。
「病院に行った方がいいんじゃないか?」
賽子の言葉でやむを得ず鍬下は退散した。
「鍬下さん、一体どうしちゃったんでしょうか? 私たちが一緒に住んでたなんて」
「さあな」
そう言って賽子はカップの紅茶を口に含んだ。