【前回の記事を読む】首から上だけで生きている男…失った五体の部分にはテーブル、生首にはビニールチューブで血液が送られていて…
サイコ7――コンビナートの決闘
「おまえ、本当に大丈夫なのか?」
小川は取調室の椅子に座っている鍬下の周りを小さな万歳をするように両手を掲げながらぐるぐる回って、彼の体を頭から爪先までじろじろ見回しながら言った。
「もう全然平気です。座ってください」
鍬下が苦笑いしながら言ったので、小川はようやく席に着いたが、それでも訝しげな表情を崩さなかった。
「健康だけが取り柄とは言ってたが、昨日は半分死にかかってたのに、もうこんなに元気になるなんて、おまえ、すごいな」
「ええ、まあ。それより、7月5日、神撰が国会議事堂襲撃を企てていることは上に報告していただけましたか?」
「ああ、報告したよ。一応。だけど本当なのか? その神撰っていうのが防衛省の陰の組織だっていうのは。そんなの一度も聞いたことないぞ。課長も首を傾げてたぞ」
「龍魔神宮の境内に倒れてた奴らは口を割っていないんですか?」
「全員カンモクよ。ただ、全焼した社務所の下は地下20階まであった。何もかも真っ黒こげで、何の施設だったのか分からないが、焼死体が十数体見つかってる。
ただの神社じゃないことは確かだな。宮司の鷹山哲大は行方不明。焼死体の一つになってる可能性もある。
それで、多田補佐官の秘書の山口がその神撰の一味だって言うんだな?」
「はい。僕が神撰について探っていると疑って、暗殺しようとしたんだと思います」
「暗殺? だっておまえ、特に毒を飲まされたりしたわけじゃないんだろ?」
「まあ、そうなんですが……」
「神社で発砲音が聞こえたと周囲の証言があったが、山口が銃を持っていて、それで発砲したということで間違いないんだな?」
「はい。奴は河原賽子に向けて発砲し、彼女は左頬に怪我をしました。そして、再び発砲しようとしたので、僕が奴の腹部を撃ったんです」
「ん? それは違うだろ」
「え?」
「境内からは弾丸は2つしか見つかっていない。一つはおまえが隠れていたという倒れた大木の幹に.44マグナム弾が埋まっていた。もう一つは地面に埋まっていた.38スペシャル弾。これがおまえが撃った弾丸だろ。つまり、おまえは山口を撃ってはいない」
鍬下は唖然とした。
「じゃあ、まさか、本当に賽子さんは弾丸を跳ね返した……」
「まあ、とにかくその河原賽子の傷を確認すれば、山口の傷害罪を立件できるな」
「それが、もう傷は無いんです」
「は? 何で」
「結構深い傷でかなり流血していたんですが、彼女が神社から出る時にはもう消えてたんです」
「いや、血が出たんだったら少しくらいは今でも傷が残ってるはずだろ」
「それが近くで確認したんですが、全く無傷になっていました」
「おいおい、それじゃ怪我したって言えないだろ。鍬下、おまえ、病み上がりで病院を抜け出したから夢でも見てたんじゃないか?」
「じゃあ、あの青竜って奴も僕の夢……」
「大木が倒れてたのも訳分かんないし。とにかく、その河原賽子が事件の詳細を知ってるんだな。あの直階たちに対する傷害罪の容疑もあるし、任意同行を要請してくれ」
「分かりました」
鍬下が取調室から出て行った後、小川は突然思い出して慌てて後ろから大声をかけた。
「おい、3万は?」