重苦しい空気を払うように、碧が話題を変えた。
「この前、小学校の給食の試食会に行ってきたの。さすがに全国二位をとっただけの美味しさ。あれなら好き嫌いの多い美里も食べられそうよ」
「お前が小さい頃は食べ物の好き嫌いなんてなかったけどな。親子でも何かと違うもんだ」
「それはお母さんが料理上手だったから」
二人が再びしんみりしたところで、テレビを観ていたスミコが嬉しそうに声をあげる。
「見て! また征ちゃんが出てる。こんなに売れっ子になって忙しいのに、毎日ここへ来てくれて。本当にありがとう、征ちゃん」
礼を言うスミコにもう一度笑いかけ、父と娘は静かに部屋の外へ出た。
「ちょっとお父さん、いつまでお母さんに征ちゃんと呼ばせてるのよ? 第一、恋敵だった奴の名前で呼ばれてお父さん、悔しくないの? 征ちゃんと翔ちゃん、いくら名前が似ているからって」
「いいんだよ。お母さんは今、巣鴨の劇場に行っているだけなんだ。夢だとわかればきっとここへ帰ってきてくれる」
「本当にお父さんってお人好しを絵に描いたみたい」
碧はふうと息をつき、「もしお母さんが正気に戻ったら、いの一番に言ってやる。お母さんは世界一の男性と結婚したのよって」
「そりゃ、ありがたいね」
碧はそこで少し声を潜め、
「ところでお父さん。実は前から気になってたことがあるんだけど」
「何だよ、改まって」
「私って……もしかして、八代丸征児の子供?」
翔太は目を見開いて娘の顔をまじまじと眺め、
「全く呆れるね、何を言うのかと思ったら。実の父親にそんなこと聞く奴があるか! 鏡をよく見てみろ、お前のどこが銀幕の大スター八代丸征児に似てる?」
「おあいにく様。私は母親似ですから」
そこで、父娘は同時に笑い出す。笑い声につられたのか、いつの間にか菫子が部屋の外に出てきていた。
「お母さん、中にいなきゃだめよ、春先の病院の廊下はまだ寒いわ」
娘に肩を抱かれて、部屋に戻った菫子は、二人を前にこう語り出した。