【前回の記事を読む】入社した不動産屋がやばかった…「500万、300平米、駅徒歩10分」と謳えば数字に嘘はないが、実際は他人の家を…

八丁味噌と取らぬ狸の皮算用

当時、妻から仕事の事などで色々と愚痴をこぼされ、気分がむしゃくしゃしていて、本当はそれどころの話では無かったのである。

だが、元同僚に言われずとも、手付金を取り返してやれば、半分とは言わぬまでも、少しはまとまったお金が謝礼として貰えるのではという、実にさもしい考えも湧いてきた。

実際そういうケースはよくあり、また、あまりに悪辣な会社のやり方に我慢出来ずに辞めようとした時の社長の態度にも実に腹立たしい気持ちでいたので、結局、安請け合いをしてしまったのである。

それから一週間後、電話で予め約束をしておいた会社近くの駅前の喫茶店で、僕は佐伯さんと待ち合わせをして、彼からこれまでのいきさつを詳しく聞いてみたのであった。

しかし改めて聞いてみても、やはり会社のやり方は相当ひどいものであった。

義憤に駆られるという表現は多少オーバーではあったが、それでも若かった僕は多少興奮して、彼に「横で、ただ黙って座っているだけで結構ですから。終わったら、一緒に昼飯でもゆっくり食べましょう」などと含む様に言うと、早速二人で、元の会社に勢いよく乗り込んで行ったのである。

乗り込むや否や、隣で心配そうな顔をして、本当に、ただ黙って僕を見て立っているだけの佐伯さんをよそに、もちろん、半分はハッタリであったのだが、僕はまるで凄むような迫真の演技で、あらん限りの大声を出して怒鳴りつけたのであった。