海猫亭の仕込みを終え、みんなで囲炉裏を囲んで茶をすすっていた。

「しかし、この町の者の言葉はいまいちわからねえ。相手のことを『おまん』て言うし、『そうだこて』、『どうすっと』、『しょうしい』、『だすけ』とか、関西や肥後の言葉も混じっているみてえだ。驚いたのは強い者のことを『ガイッちょ』って言うんだな? なんか毛唐(けとう)の言葉も混じってんのかい?」

勘治が首を傾げてお遥に聞いた。

「フフフ。そうだね、お前さんも今町に少し慣れてきたんだね。ここいらの言葉は、慣れないとわからないよ。やっぱり港町で、上方や向こうの旅の人たちがたくさん出入りしてきたから、言葉や文化も独特なものが多いのかもね。

東と西のちょうど合わさる港町が、ここ直江の津・今町なんだ。食べ物だってここいらの正月は寒鰤(かんぶり)だけど、少し東へ下ると鮭だよ。雑煮の餅も、丸餅と角餅が入り交じっているんだ」

お遥は急須で熱い茶を入れた。

「じゃあ、高田のお殿様のところも同じなのかい?」

「高田のお殿様かい? 高田はこの今町と正反対だよ。ここいらの浜の者たちの荒っかちゆうぽい言い方はよしといた方がいいよ。越後一の城下町だからね。家中の武士はただではすまないよ。そうでなくても江戸の大殿様たちが、高田の殿様の禄の低さに業を煮やしているとの噂だ」

「高田のお殿様は、そんなにやせ細っているのかねえ。米どころだから、ふくよかで潤っていると思っていたんだがなあ。やっぱりまだあの不作が響いてんだな」

勘治のいう不作とは、天保の飢饉のことである。

 

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