ところが学年が上がるにつれて、お母さんは悩みを漏らすことが増えてきた。
彼は平気で嘘をつく。すぐばれてしまうことでも嘘をつき、問いただすとしらばっくれる。
またお母さんが料理をしている時、彼が台所を覗くことがあるが、その時お母さんが包丁を使っていたりすると、大仰(おおぎょう)におびえたり大声をあげたりする。
時には窓を開けて、外に向かっていかにも虐待されているかのごとく“助けて”みたいなことを叫んだりするので困っている、と溜息をついた。
こばとにいる時の彼の態度からは想像もできないことなので、私も言葉の接(つ)ぎ穂がなく啞然とした。
彼は被害妄想癖があるのでないか。彼の様子から、家族としての絆が生まれ、幸せになってきているのかと思いきや、現実はそう甘くはなさそうだ。
彼は養父母を心から信頼しているのではなさそうだ。
養護施設で過ごした三歳までの記憶が今の彼に影を落としているのだろうか。
里子になった後も、養護施設には一家で時々帰っていると聞いていたし、出自にこだわったり、引け目に思ったりする様子も見られなかったのだが……。
いじめから不登校に
お母さんの深刻な悩みが解決を見ないうち、緊急のケースということで、養父母は六カ月の女の子を里子として受け入れるという。
私はびっくりした。一人だけでも心労は並大抵ではないというのに、さらにもう一人?
……そう言えば、養父母は家庭生活を味わわせるという目的もあって施設の子をショートステイで時々預かっていると言っていたことを思い出した。
女児が成長し普通食になるにつれ、お母さんは彼女についてもまた別の悩みが出てきたようだった。
彼女は食べ物にとても執着する。満腹ということを知らない。
もしかしたら入所するまでに飢餓経験があり、それがトラウマになっているのだろうか?と思ったと言う。
そしてそのこと以上に悩んでいたのが、彼女の実母が施設や児童相談所を通して彼女を引き取りたいと言ってくることだった。
今の実母はとても安心して子どもを返せる状態ではないと悩んでいた。
手元に置きたい気持ちもあるのかもしれない。
次回更新は7月11日(土)、14時の予定です。
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