なんで私は初対面の男とお茶してるんだろう。早く立ち去りたい私はアイスコーヒー。彼は生クリームを乗せたドリンクだ。
「お願いです。ちょっと横を向いてください」
「何がよ、ほんと失礼」
近くで見た男の肌質も明らかに若いので、上から言いやすかった。意固地に正面を見ていると、ツツーッと彼が椅子を移動させ、朝子の斜め横に陣取る。
「うわあ。こんな耳の人こそぼくの理想の結婚相手」
「ごめんなさいね。もう子どももふたぁり」
これみよがしにシルバーの指輪を見せた。
息子は26、娘は28で結婚していて男の子の孫までできた。無論そこまでいう気はない。
「でもですね、全てにおいてぼく達の相性は完璧です。今の旦那さんとはどうなんですか?」
どこまでぶしつけなんだろう。ここ最近、私の出掛け過ぎが原因で食事中もまともに会話をしていない。ほんとにこの人で良かったのか。これから先、ふたりだけの生活が始まるのが今から心配だった。そんな不穏な空気は滲み出てしまうのか。
いや、私は別れる気は毛頭ない。現在は働きに出ることもなく優雅に買い物ができるのも、大手メーカー勤続もうすぐ32年の夫のおかげという認識は持ち合わせている。ま、それを支えてきたのはこの私に他ならない。
で、この年齢になれば、少し昔の恋愛の名シーンの反芻で、肌の色艶を良くしたり口角だって1、2センチは上げられる。現にさっき、電車の中でにやついていたじゃあないの。ま、ともかく今更何も始める気はない。
52歳の顔ときたら、シミ・シワ・くすみ、あらゆるところが本調子ではない。私はこんなものではない、今は臨戦態勢ではおよそない。そもそもそんなエキサイティングな機会が今後来るのか来ないのか。いや来ないとは言いきれない。と頭の中は激しく駆け巡る。
それにしてもと、彼を横目にため息がまたひとつ。
耳! 耳を見染められた。初めてなのに少しも嬉しくない。
次回更新は7月9日(木)、20時の予定です。
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