「あの者は、既に都で、検非違使の判官(従五位)まで熟(こな)して来た者なるぞ。当地の警護所の司などの身分ではないわ」種材は、身形からして、単に高明の嫡子故、同道してきた都の貴公子。と見做していたが、全て彼の今迄の実力が、彼からして、ほんの僅かな〝能力の一端の披露〟に過ぎなかった事を思い知らされ、故に、彼は、この権帥の前で平伏した。
親子だからでは無く、忠賢の実力が警護の任に十二分であるから、同道させたに過ぎなかったのだ。見た目や、年齢(としかさ)だけで人を判断していた自身を恥じた。
しかし、高明は、この遣り取りで『そうか、忠賢を大宰の〝正使〟として遣わせば佳い』と言う考えが思い浮かんでいた。あとは時期だけであった。
そうなると、切り替えは早かった。
「して、その方に尋ねる。時期について最も海が穏やかで、素早くこの二か所を回れるのは、何時頃じゃ」
「はっ、今と申したき所ですが、実を言えば、今は、左様に早く二か国を回る事は、適いますまい」
種材は、高明の発する質問(声)の調子が〝然程怒ってはいない〟と、一安心し、彼の問いに対する答え〝のみ〟に専心した。
「何故じゃ?」
「海が凪ぎ、海面は、適しておりますが、風がございませぬ。又、この時期、風が吹く場合は、嵐の様に猛々しい風になり、危険でございます」
「然様か、では秋ならば如何じゃ?」
「はっ、漁民にとって最適な季節でございます。然るに、航海にも適した季節とは思います。しかし故に船が手配出来るかが、問題でございましょう」
「然様か、船さえ用意出来れば、其の方は、参れるのじゃな?」
漁民では無く、自分に行けとこの御仁は言っている事が、はっきりした。種材は心の中で『しまった』と呟いたが、後の祭りであった。
しかし自分が船頭となると、正使は誰になるのか、自分では無い事は自明であったが、それがまさか忠賢に成るとは、努々(ゆめゆめ)考えも及ばなかった。
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