八 祈り
朝の定例の勤行が終わって間もなく、沙代里姫を成仏に導くための法要の支度が始められました。
しかしこの日行われた法要は、これまで恒龍寺が執り行ってきた数々の法要の中でも例のない、極めて特異なものでした。
武将の姫君の墓と言うにはあまりにも質素な墓は、周囲の草や芝が刈り払われ、表面の苔や汚れが洗い流され、色取り取りの花々で飾られました。
野菜や果物、菓子の類の供物が蓮の葉を敷いた器に盛られ、香が焚かれ、ろうそくが灯されました。普段本堂で用いられる磬(けい)や木魚、曲彔(きょくろく)など、幾つかの仏具までもが運ばれて来ました。亡霊に切り取られた宗佐の指は、拓善の指示であえてそのまま墓前に供え置かれることになりました。
支度が整い、寺のただならぬ様子を聞いて集まった地元の民や寺の者が見守る中、威儀を正し、和尚の正装である緋色の法衣に濃紺の絡子(らくす)をまとった拓善が侍僧役の俊開を伴って現れました。
彼は墓に向かって数珠を持った両手を合わせ、恭しく拝礼した後、曲彔に腰かけました。余韻を長く引きながら磬の高く澄んだ音が鳴り響き、拓善がよく通る低音で経を読み始めると、周囲にはおのずから厳粛な空気が張り詰めました。
最初に唱えられる開経偈が終わり、磬がまた一つ高く鳴り響いたところで、笛を携え、秀でた眉に静かな決意をみなぎらせた宗佐が、手を引かれて拓善の横に進み出ました。
新しい傷は疼き、昨日来の心身の疲れは癒えず、時々めまいも襲って来ましたが、今の彼にとって、そうしたことは何の妨げにもなりませんでした。
もしも今ここで姫様を成仏に導き、その魂を本当の幸いの境地に至らしめ得なかったなら、一体おのれは何のかんばせあってこの後の生を享受できようかという巌のような決意が、彼の中に根を張っていたのです。
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