「どうしてよ。お母さん」
「遥香が好きだった人でしょ? どうしてもっと―」
「お母さんはなんでそんなふうでいられるのよ! 遥香が好きだった人でも、私は好きじゃない。遥香はこの人のせいで―」
「由紀子!!」
「……」
時が止まって静寂に包まれたみたいだ。遥香の祖母は、その痩躯とこれまで見せていた優しさからは想像もできないほど大きな声で由紀子さんを叱責した。
「由紀子、簡単にそんなこと言っちゃダメ」
「じゃあ、どうしたらいいのよ」
由紀子さんは座り込んで泣き出した。これが僕がやったことなのだ。一つの家族をめちゃくちゃにした。それを今目の当たりにして、僕は自分に憤りを感じた。どうして、こんなことをしてしまったのか。三年前の僕は自分のことしか見えていなかった。
「あの」
泣きじゃくる由紀子さんと遥香の祖母が、同時にこちらを見る。
「僕の存在が皆さんの関係を壊してしまっている。僕一人で皆さんが不幸になっている。遥香さんだけではなくて、遥香さんを取り巻く緑川家のすべての方に謝りたいんです。僕は自分の罪を吐き出して楽になろうだなんて思っていません。
皆さんが僕を遠ざけたい、忘れたいと思っているのはわかります。僕は皆さんが望む通り、事を済ませたらいなくなります。でも、黙っていなくなりたくない。三年も経ってしまいましたが、ちゃんと謝って皆さんが僕を思い出すことがないように、笑って毎日を過ごせるようにしたいんです。
きっと謝りもしなかったら、この先ももっと皆さんは僕を恨んで、この家が澱んでしまう。大切に想っていた遥香さんと、そのご家族だからこそ、僕は今日謝りに来たんです」
「私たちは遥香を見る度に、遥香のことを想う度に、どうしてもあなたの存在を思い出してしまう。だから考えないようにして生きてきた。
あなたに求めるのは謝罪じゃないの。できることなら、あなたがいた事実そのものを消したい。家族全員の記憶の中からあなたの存在を抹消したい。今さら謝られても困ります。嫌な記憶を掘り起こされるだけだから」
由紀子さんは、目を真っ赤に染め上げ、それでも先ほどは違う冷静な口調で言った。謝っても無意味だと言われるとは思っていなかった。謝罪以上の態度を僕は知らない。
「あなたが言っているのは全部綺麗事。私はあなたを絶対に許さない。それでも謝りたいというのなら、二度とうちに近づかないで。それがあなたにできる最大の謝罪です」
次回更新は6月23日(火)、11時の予定です。
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