もう弘ちゃんはこの頃より大きくなっているが、これはその頃の弘ちゃんのエピソードだ。

弘ちゃんだけど。

つばきさんが見たくて、学校帰り、外の階段からお隣のマンションの二階の出入り口にランドセルを置いてそのあたりで遊んだの。初めはね。そしたらここにいたの。つばきの花がね。

弘ちゃんは「変な子」だってさ。みんなが言うんだ。

気づけば道バタにどっかと座りこんでいたりしてね。

わずかに残されたような都会化した土地の隅っこに遠慮がちに咲いている草花をじっと見ている子なの。みんなこまった子だと言う。お父さんも先生も諦めているんだ。

寒い時期、心もかじかんだ弘ちゃんは、大輪の真紅に出会ったよ。とても、うれしかったし、じっと見つめていた。弘ちゃんのママはね、いないの。弘ちゃんのうっすら覚えているママは、紅の大きな椿の花のような人だったような、そんな気がする。

つばきさん、君はずっと頑張っていたね。すごい頑張りやさんだ。僕は君が大好きだったよ。

弘ちゃんは、多分えらい人にはなれそうもないけどさ。普通のね、普通のね、「大人」になるよ。そして君たちを守るよ。指切り、げんまんするよ。

きっと僕はお花を、動物を、お友達にする大人の人になる。そして自然を、君たちつばきさんも守るよ。

許してね。つばきさん。

人間は本当に自分かってだよね。

弘ちゃんは椿の木の「いた」あたりに、第二の「椿の木」みたいになって眠り込んだ。

夕日も沈み、大人たちが弘ちゃんを捜して騒ぎ出していた頃にも、まだ弘ちゃんは安心しきって眠っていた。

 

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