ご夫婦にはお子さんが一人、二人と生まれた。
上の子は少しご主人の方に似て、下の子は奥さんに似て、二人とも男の子だった。二人の子はよく弘ちゃんという子供と三人でその庭の地面に絵を描いたり、花びらを絞って赤、藍色、紫などの色水を作って遊んでいた。その時落ちていた椿の花びらから紅い色水を作ったこともあった。
年月が過ぎ、その家は建て替えられることになり、椿も切られることになった。つばきの思いを知る人間もいた。しかし椿の木を救うことは出来なかった。
つばきは少しでもその次の生への希望が持てないように切られた。根っこのあたりでバッサリと切られた。
つばきの悲しみとつばきの叫びは、まだその年の花を咲かせられない残暑の厳しい九月某日に切られたことで増幅されたようだった。残骸の枝は重なるように無造作に積まれ、枝の重なりから何かを発していた。
在りし日のつばきの花は、風雪に耐え、ひたすらお日さまに恋していた。
お日さまお日さまと隣家の二階のベランダまで伸び続けた椿の木。
在りし椿の木のてっぺんのあたりに沿って賃貸マンションの二階の出入り口側の通路があった。その建物に弘ちゃんたち家族は住んでいたことがある。弘ちゃんはすぐここから越すのだが、弘ちゃんはよくここに帰ってきていた。