【前回の記事を読む】行方不明になった愛犬を諦めかけていたその時、「とある夫婦がよく似た犬を飼っている」噂が…トラブル覚悟で突撃訪問すると…

緑川次衛門氏のあした

それから話を聞くと、田中さん(アイアンを引き受けていてくれた家族)の息子さんが迷っていたアイアンを連れてきたのだという。

田中さん宅ではその少し前、息子さんが小さい頃からずっと飼っていた犬を亡くしたばかりで、まだ次の犬を飼う気はしなかった時期だった。

何かの縁と、もし飼い主が見つからなかったら引き受けようと、何しろお預かりしているという気持ちで、でも飼い主を捜そうとしなかったのは、本心は家族全員もう最初から手放せなくなっていたからだと告白した。

そしてこうも話した。この頃ではこのまま飼ってしまおうという話も出ていたと。そんなこんなでひとまずお礼を言って、単純な次衛門氏は喜び勇んで、自転車のハンドルの安定をとりながら、アイアンの手綱に合わせてほとんど歩いて帰宅した。

「おまえは犬なのに自分の家もわからないのか」

帰路、次衛門氏は何度もアイアンに言う。

アイアンは田中さんの息子さんに見つけられた時、深い傷を負っていたという。田中さんは見ず知らずの犬を動物病院にまで連れていってくれ、その後も手当してくれ、長く家で世話をしてくれたのだ。

誰でも出来ることではない。何と言って感謝していいかわからない。家に帰ったら安心したのか、アイアンは伸び伸びと体を長くすると寝転んだ。

さすがに今日は犬小屋にとは考えられず、次衛門氏は新聞紙を玄関から続くホールに広げて、そこに水と餌を置いた。

どこからかピッケがぬすっと現れた。そして、アイアンの側に場を占めた。二匹は何事もなかったかのように一緒に眠っていた。