【前回の記事を読む】犬小屋まわりの掃除中、しっかり繋いだはずの鎖が外れた。…愛犬は解放されたように外へ飛び出し、何日たっても戻らずそのまま…

緑川次衛門氏のあした

娘たちも散歩道を中心に捜してくれた。「父さん、アイアンの似顔絵を貼って捜そうよ」

絵を描くことの好きな次女は、スケッチブックにアイアンをたどりながら写真とにらめっこだ。

「でもどこへ貼るのよ」

ボランティアで活動している長女はそういう事情に詳しい。

「父さん、町内会の掲示板に貼れるように交渉してね」

次衛門氏は初めて貼り紙をすることに規制があることを知った。どうも町の美化の為らしい。きれいな町はいいことだが、少し手続きが面倒らしい。ピッケも相棒の不在を遅まきながら感じてか、アイアンを呼ぶように時々長く鳴いた。

一度保健所から「それらしい犬がいました」と連絡があって娘たちと三人で駆けつけたが、アイアンではなかった。 いつしか木々は秋色に染まり、台風の季節は過ぎ、それでもアイアンの行方はわからなかった。

もう諦めかけていた。

だがこの思いが天に通じたのか。

次衛門氏は、何しろそんな訳で、ずっと散歩をしていなかった。しかし歩くことが好きになっていたので、それにもしかしたらという諦め切れない思いがあって、アイアンと歩いたその散歩道を一人で毎日一回ではあるが、歩いていた。

犬友達には早い段階で訳を話し、協力を求めていたのだが、その中で言いそびれてしまっていた人たちもいたらしく、何事もなかったかのように、

「今日はアイアンちゃんどうしたのですか」と尋ねる人がいた。 その人の話によると、アイアンによく似た犬を見かけたという。その家は結城市のここから少し離れていて、息子さんとご夫婦でくらしているらしい。

その家でアイアンによく似た犬はごはんをもらっているようだ。次衛門氏はこの頃の、例のメモノートをポケットから出し、そこにその家の大体の位置とかの地図を描いてもらった。

次衛門氏の家庭では妻にほとんど運転を任せていた。彼は俗に言うペーパードライバーだった。運転免許証はあるのだが、取っただけだったので、ここはいつものママチャリで移動する。思ったらすぐの人、次衛門氏。この日は長期休暇中にいた次衛門氏ならではの、彼の日曜日になっていた。

自転車は小回りもきき、慣れない自動車運転よりはるかに効率的だ。駐車時の心配もなく便利だと次衛門氏は考えていた。もちろんあたり前のごとく道に迷ったが、聞き、聞きして何とか、その日は駄目だったが、何度か、何日かこころみてやっとそれらしい家を見つけ、訪ねた。その家は結城市に隣接している本町市にあった。