ここまで突き止めたのに、次衛門氏には、迷いがまだまだ湧いてくる。アイアンだとしたら、なぜここにアイアンがと思いつつ、その家人に出来るだけ気づかれない場所で、観察とかをしてから、決心しその家の玄関に立った。

足は震えていた。

鉄筋住宅で正面に駐車場があり、二台の車が置かれていた。よく刈りこまれたツゲの木が門に沿って植えられていた。

「犬は三日飼えば恩を忘れずという。アイアンならおれがわかるはずだ」

アイアンらしい犬は主人らと家の中でくらしているらしく、犬舎らしき小屋はその家の庭に見つけられない。次衛門氏は「飼われているとしたら」と考え、迷いの中で、その犬がアイアンで自分を主人と認めたとしても、今の飼い主との間でこれから起こるかもしれないトラブルについてこの時初めて考えるに至った。

幸い、アイアンらしき犬は可愛がられているようだし、むしろアイアンと確認する前に、アイアンにこだわらず、このまま自分が姿を消す方がいいのではないだろうかという思いに傾いていくようであった。

よく考えると前もって電話もしてない自分のせっかちさが浮かんだ。そういえば電話番号も知らないんだ。でもこの時、例によって「先ず、飛び出す」性格がその玄関のドアのチャイムを押していた。

家人は今在宅だろうか。

訪問を告げる為に押したチャイムは、今の住宅ではあまり見かけない引き戸の玄関に付いていた。 

押しながら、その時もまだ帰ってしまおうかと迷っていた。出てきたのは次衛門氏世代のような男の方で、やはり今日がお休みで家におられたという感じだった。

電話もせずいきなりの訪問を先ず詫びてから、犬のことを正直に丁寧にかいつまんで話してみた。正直に話したことが相手に好感と聞く耳を持たせてくれたようだった。

迷った思いは家人に感じるものをもたらしたらしく、家人は犬を呼んだ。

「アイアン?」

次衛門氏は出てきた柴犬に呼びかけた。アイアンが体全体でしっぽを振り、うれしさを表し、走ってきて飛びついた。

「アイアン、アイアン」

アイアンは次衛門氏から離れない。

 

その頃、そこの家の主婦と思える方も加わって、じっとこちらを見ていたが、このご夫婦共にアイアンにとても淋しそうな眼差しを送ると、納得しようとするように、

「今すぐ連れていかれますか」と尋ねてきた。

「連れて行きます」

その時次衛門氏は顔、手かまわずペロペロなめまわすアイアンを抱きながら答えた。

 

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