次衛門氏は今日も散歩に出かける。犬と猫の世話をする。アイアンが戻ってきてからは娘たちも安心したらしい。

連れ合いを亡くした寂しさは時として次衛門氏に深い静寂な闇をもたらしたが、妻は生前よりもぴったりと彼の傍にいてくれているような気もする。

ピッケやアイアンが時に次衛門氏の手をなめ、そのふさふさとした体に触れる時、甘える仕草、その眠りのさまも、その全てペットたちとのふれあいのおかげで元気に過ごさせてもらっているようだ。

ピッケはこの頃、次衛門氏の食べている肉などを欲しがってチーズや人間が食べている食物をもらった結果、贅沢になり、キャットフードを吐き出して拒絶しだしたし、アイアンは例によって土を掘って、次衛門氏は相変わらずスコップで穴埋めをする。

でも彼らのする何かが次衛門氏を慰め、日々に活力をもたらしている。誰だって自分を必要としてくれるダレカの為に生きている。

次衛門氏の思いは凄くゆったりとではあるが、ナニカからダレカに育って、それは、今隣人から地球規模への思いやりにまで向かっているようだ。

今日は町内会の掃除の日だ。妻が生きていた頃はこれも妻に任せて自分は全く参加しなかった。それを今、次衛門氏は生き生きとこなす。

あんなにやる気がなくなり、ぼんやり過ごしていたことが嘘のようだ。今の次衛門氏のほんの少しの妻への後ろめたさは、この「元気」かもしれない。

次衛門氏はあしたを考えて生きるより今を生きる。あしたは必ず来る。そしてその日は同時に、自分が妻のところへ行く日かもしれない。人はどんなに愛した人ともいつかは別れなければならないのだと知った。

次衛門氏は、町内会の掃除時に配られたペットボトルのお茶をうまそうに飲みほした。

 

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