第一章 生命力を支える家族

生きる力

目的物にまっしぐら

年子で生まれた息子が、二人とも自閉症と診断されているというお母さんから面談の申し込みがあった。療育を希望しているのは重度の長男の方だと言う。

お母さんと手をつないで入室してきた長男は、五歳という年齢の割には大きく、おっとりしていた。自閉症児にありがちなこわばった不安そうな表情、緊張した様子は見られなかった。笑顔が可愛かった。

彼は言葉がまだ出ていなかった。既に年少時から障がい児が通う市立の通園施設(現在の医療型児童発達支援センター)に通っていて、「こばと」を知ったのはそこのママ友からの情報だった。

彼は発語こそまだないが、自閉症児によく見られる仕草、こだわりの強い動きはなく、アイコンタクトも良かった。ただ、多動で、それも突発的に周りを見ないで目的物に向かって素早く動くので、お母さんは気が許せないと言った。

弟の方は兄の通う通園施設ではなく、地元の保育所に通わせていた。お母さんは二人の障がい児を抱えていたが、表情は明るくはきはき喋る人だった。お父さんの理解と協力もあり、明るく頑張れているようだった。

長男は体格が良かったので、小学生と同じ机を使って療育を開始した。確かに彼は多動ではあったが人懐っこかった。笑うと愛嬌があったし、名前を呼ぶとすぐに振り向いた。

名前を呼んでも反応しない自閉症児も多いが、彼は返事こそないもののすぐ振り向いて、呼んだ人と目を合わせた。

ただ誰に対しても反応が良いわけではなく、彼の中では周りの人のランク付けがあるようだ。

優しく接しても筋を通すブレない芯の強さを持っていないと敏感に見抜かれてしまうね、とスタッフ達は苦笑し反省していた。

「絵とことばのマッチング」

彼は療育に用意した課題を拒否することなく、指示には素直に従ってくれた。

まだ発語のない子どもに必ず行う、こばと定番の「絵とことばのカード」のマッチングをやると、事物の名詞はだいぶ頭に入って、絵カードや絵本の指差しも確実になってきた。

「絵とことばのマッチング」は、絵カードと単語カードを対応させ、絵・音声・文字を同時に結びつける課題である。

慣れてくると文字だけで絵を思い浮かべられるようになり、発語・言葉の習得へとつながっていく。

彼は思いのほか集中が良く、文字や数字のなぞり書き、ハサミ、色塗りなども丁寧にできるようになった。彼の知的レベルからいっても順調な進み方だった。

文字カードを見せて音声の模倣もできるようになり、二、三音節の単語もオウム返しで出てきた。

相変わらず多動ではあった。彼の場合、不安から無目的に動くのではなく、目的のものを見つけると周りの状況を見ないで見境なく突進する。素早い身のこなし、速さなのである。

スタッフが制止しようと彼の体に手を伸ばしても、体をくねらせて見事にすり抜けていく。その体は柔軟で素早く流れるように動くのである。

 

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「止める間もなかった」…預けていた5歳の長男がテーブルに足をかけた瞬間、鋼鉄製の台座が倒れ、後頭部を直撃し……

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