この屋敷の主の名は、北沢修次(しゅうじ)。日本でも有数の大企業として名を連ねる北沢財閥の会長の次男だが、中学の頃からかれこれもう三十年以上もこの屋敷でひきこもりを続けている男だ。

北沢が極度の人間嫌いのため、屋敷には必要最低限の人数の通いの使用人と、養子が一人いた。それが藍だった。

「藍も養子なんだ?」

「うん。そうだよ。僕は、半年くらい前からかな」

「そっか。じゃあ、養子の先輩だな! よろしく、先輩」

飛鳥はそう言って笑顔を見せると、藍に右手を差し出した。

「こちらこそよろしく」

飛鳥の屈託のない笑顔と口調に、藍もついつられる。歓迎していたつもりでいても、どこかぎこちなかった雰囲気は、ブンブンと大きく揺すられた固い握手を交わすうちに自然と消えてしまったようだった。

飛鳥の部屋は別に用意されているから案内すると藍は言ったのだが、いろいろ聞きたいこともあるからと、北沢の自室を出たその足で飛鳥はとりあえずと藍の部屋に向かった。

シングルベッドと小さな洋服ダンス、そして木製のシンプルな椅子だけが藍の部屋の家具の全てだった。

次回更新は6月18日(木)、7時の予定です。

 

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