【前回記事を読む】「今度のも、楽しめそうだ」…“家族”になった養父に思い切り煙を吹きかけられた…むせた私を見ながら、彼は笑みを浮かべ……
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椅子をまたぐように逆向きに腰掛け、椅子の背もたれに腕をまわす。さきほどまでは借りてきた猫のようにおとなしかったが、もう緊張しなくてよくなったからと、本来のやんちゃさと人懐こさが仕草に現れる。
床につけた自分の両足を軸に椅子を斜めにして、四本あるうちの二本の脚だけで微妙なバランスを取りながら前後に振る。ゆらゆらと、そんな風にして揺れを楽しみながら飛鳥は藍に話しかけた。
「あの人さ、スゲェおっかなそうだけど、いつもあんな感じなの?」
第一印象は『怖い』だけだったけれど、初めてできた養父には違いない。その興奮は未だに冷め切っていなかった。そんな飛鳥を藍は、「椅子、壊さないでよね」とでも言いたげな表情で見下ろしていた。
「そうだね。人間嫌いみたいだから、呼ばれた時以外は近寄らない方がいいよ」
藍は、この北沢家で暮らすうえでの心がまえの一つだと、養子の先輩としてアドバイスを送った。
「ふーん。人間嫌いなのに二人も養子にしてくれるなんてな。何でだろう?」
「……さあね」
藍の言い方に含みのあるような気がしないでもなかったが、根がまっすぐな飛鳥は人を疑うことを知らない。北沢のことは藍の言葉通り、機嫌のいい時にだけ恩返ししようというくらいにしか思っていなかった。
* * *
北沢には、用事がある時にだけ呼び出された。
料理やコーヒー、お茶、酒、煙草などは通いの使用人が用意まではするが、使用人の仕事はそこまで。北沢の部屋に直接運ぶのは飛鳥と藍の役割だと、藍に教わった。使用人は決して北沢と顔を合わせてはいけない、という決まりごとがあるのかと思うくらい徹底されていた。
飛鳥が、北沢家にやって来て数日が経った。