北沢は常に煙草をくわえているので、あっという間に吸い殻で灰皿が山盛りになってしまう。

それに北沢は、よくいえばなにごとにも無頓着だ。きちんと灰皿に入らなかった煙草の灰が、ローテーブルや高級そうな絨毯にもこぼれていた。その灰をきれいに拭きあげるのも仕事のうちの一つだ。

ローテーブルの上にちらばった灰はすぐきれいにできても、毛足の長い絨毯に落とされた灰をかき出すのには、かなりの時間がかかる。掃除機で吸えば早いのだろうが、音がうるさいと、以前北沢に文句を言われたのかもしれない。藍は掃除機を使わず、床に這いつくばるようにして一つ一つ、その繊細そうな指で灰を拾いあつめていた。

その最中にも、ハラリハラリと、北沢の落とす灰が意地悪く、藍の作業を遅らせる。

見かねた飛鳥が以前、藍を手伝おうとしたことがあったが、北沢に、

『目障りだ。用が済んだら早く出て行け!』

と、怒鳴られた。それに、もうあんなの慣れっこだよと言われたため、飛鳥はまるで嫌がらせをうけているようにしか見えない藍を、もどかしさを感じながらも、ただ見て見ぬふりをするしかなかった。

だが心の中では、次第に見えてきた北沢の性格の悪さに、いくらご主人様だからといっても違うのではないだろうかと、少しずつ芽生えはじめてきた憤りをつのらせていた。

藍がいいと言うから黙って北沢に従っているが、飛鳥はそんな風にしかできない、無力な自分自身にも腹が立ってしかたなかった。

飛鳥は、自身のその性格上、理不尽なことや、ゆるせないと思ったら、すぐに抗議するタイプだ。

次回更新は6月25日(木)、7時の予定です。

 

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