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澄み渡る青い空。美しい化粧石で舗装された歩道には、きれいな花壇や街路樹が植えられた並木道が遠くまで続いている。あたりは、圧倒されてため息が出そうなくらい大きな屋敷が立ち並ぶ閑静な高級住宅街。その中でも、ひときわ大きな屋敷の門前で、黒塗りの高級車は滑るように静かに横づけされ、エンジンを止めた。

「着いたぞ」

低く、無愛想な声で、運転手の男が後部座席に座っていた藤堂飛鳥(とうどうあすか)にその旨だけを伝えた。

男は、ハンドルを握ったままの状態で振り向きもしない。車のルームミラーからうかがえる男の顔は、色濃いサングラスのせいもあって表情すらもわからなかった。

車に乗せられ、ここまで来る道のりでも男は一言も話さなかった。時折、男のする咳払(せきばら)いが響いたが、シンと静まっていた車内、エンジンと走るタイヤの音だけが延々と聞こえてきていた。男とは、今日初めて会った。だから会話など不要だったのかもしれない。話しかけることすら躊躇(ちゅうちょ)させるその雰囲気に、飛鳥はただ黙ってその時間を耐えた。

事前に決まっていたとはいえ、たった一人で知らないところへ行くのだ。胸に不安を抱えていた飛鳥には余計に長く、重苦しく感じる時間だった。早く降りろと急かされるような空気を感じた飛鳥は、すぐに車から降りた。門に掛かる表札の、『北沢(きたざわ)』の文字を確認してから深呼吸をする。

飛鳥がそうしていたその間にも、おかまいなしに男は、再び車のエンジンをかけ、飛鳥を置いて走り去ってしまっていた――。

――もう、あの場所には戻れないんだ。