走り去る車を見つめながらそう思うと、置いてけぼりにされたかのような気持ちになり、何だか寂しくなった。ここに来ると決めたからには、そんな感情は全部置いてきたつもりだったのに。
哀愁に浸って、このままいつまでもここでじっとしているわけにもいかない。
飛鳥は目の前に設置されていたインターフォンを押した。屋敷の向こう側はこちらの顔がモニターに映るが、飛鳥にはただの無機質な機械が相手だ。
この北沢家については、『北沢』の名前のみで一切情報を知らされていなかった。家主が男性なのか女性なのか、それすらもわからない。インターフォンの応答がくるまでの間に緊張で手に汗をかいた。
『はい』
若い男性の声で応答があった。
実際には応答までにかかったのは十数秒くらいだったのだろうが、飛鳥にはとても長い時間に感じられた。
「と、藤堂飛鳥です」
緊張のあまりのどがカラカラで、声がうわずってしまった。
挙動不審になってしまったにもかかわらず、相手は声色も変えず続けてきた。もちろん飛鳥には見えないが、インターフォンにはカメラもついていて、向こうからは飛鳥の姿が見えていたから特別問題もなかったのだろう。
『どうぞ』
インターフォン越しの声がそう告げると、二メートルは超すくらいの高い塀に囲まれた重厚な観音扉になっている門が、ゆっくりと向こう側に押し開いた。全て機械制御でなされているのだろう。飛鳥が門を通り抜けて数秒が経つと、門は再び動き出し、元の位置に閉じた。
門からずっと奥に向かって、人、二人が、ゆったりと並んで歩けるくらいの幅で、グレーの石畳の道が続いていた。両脇には砂地に、等間隔で形や色の違う大きな石が置かれていた。その奥には、飛鳥には種類のわからない木々がたくさん植えられていた。