そして、三人掛けの高級そうなソファに座ってこちらを向いていた、飛鳥の養父となる北沢に目をやった。
背筋は丸く、前かがみ。こけた頬と、ボサボサに伸びた髪とひげ。くわえ煙草をふかしながら、目線だけで飛鳥をとらえていた。
クマのできた両目が不機嫌そうで怖い印象を残し、飛鳥は心の中で怯(おび)えた。しかし、養子にしてもらったのだ。感謝していることをきちんと伝えてお礼を言わなければならない。
「あ、あの。このたびは養子にしていただきましてありがとうございます」
飛鳥は北沢の目の前に歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「……」
北沢からは何の反応もなかった。寡黙な人なのだろうか。初対面なのに何の言葉ももらえないのは寂しく感じたが仕方ない。
頭を上げると、北沢の吸っていた煙草の煙がもろに顔にかかってしまい、不覚にも咳き込んでしまった。
「ゴホッ、ゴホッ」
咳をしながらも、「すみません……」と謝る飛鳥の姿を見て、北沢は口元でニヤリと笑みを浮かべた。
北沢は、口元から離した煙草を灰皿に持っていく。そして灰皿に灰を落としながらつぶやいた。
「今度のも、まあ楽しめそうだ」
「え?」
ボソリと言った北沢のひとりごとが聞き取れなくて飛鳥は聞き返したが、「こっちのことだ」と、流された。
「では、僕たちはこれで失礼いたします。飛鳥、行くよ」
割って入ってきた藍に、なかば強制的に連れ去られる。まだまともに挨拶もしていないのにいいのだろうかと飛鳥は思ったのだが、北沢の関心はもう飛鳥に向いていなかったし、何も言われなかった。