道具の強迫的使用
また意図しない動作が勝手に発現するという症状が報告されていて、この中で道具の強迫的使用という状態がある。これには右手が眼前に置かれた物(道具)を意思に反して強制的に使用してしまい、左手が意志を反映してこの運動を押さえるというものである。左の補足運動野と脳梁膝部の病巣で生じるという。
患者の前に櫛(くし)を置いた場合、右手は意志に逆らってこれを持ち髪をといてしまう。道具を使用しないでいるためには、左手が櫛を取り上げるか、左手が右手を押さえなければならない。開始された右手の行為は左手による抑制が成功するまで続く。患者はこのような異常行動に対し、「右手が勝手に動いてしまう」と右手の非所属感や運動の不随意性を訴えることがある。
これは運動の抑制機構の障害により、学習された行為レベルの運動パターンが(抑制から)解放されたものと考えることができる。左半球に蓄えられている道具使用に関する高次の運動記憶が賦活され、この運動記憶の触発を抑制する機構が機能しないために実際に道具を使用してしまうのであろうといわれる。
この運動行為は普通の状態では(脳梁前半部経由の)右半球からと左半球前頭葉内側面(左右の補足運動野のこと)から二重の抑制を受けていて、道具の強迫的使用はこれらを損傷する病変により両方から脱抑制(抑制から解放)された結果起きるものと考えられる(2)。
(1)『連合野ハンドブック 完全版:神経科学×神経心理学で理解する大脳機能局在』河村満(編集) 医学書院 2021年
(2)『行為と動作の障害』一般社団法人日本高次脳機能障害学会 教育・研修委員会(編)新興医学出版社 2019年
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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