『ああ、さいですか。で、シンセーってなに? 新しい星ってこと?』と思ったが、ここはぐっとこらえて、詳細を問うのだけは堪えた。
これ以上深入りしたくないからだ。この人は話好きらしい。わたしの心の中の分析装置がそう結論付けている。
ならば、話題の接ぎ穂を与えるべきじゃない。だからこちらの不快が伝わるよう、極力つっけんどんに、「はい」とだけ答えた。
でも、あまり効果はなかったようだ。相手の素っ気なさなどお構いなしに、彼の口は動き続けた。
「未完成のままで孫が行ってしまってからというもの、すっかり気落ちしてしまってね。望遠鏡は文字通りのお蔵入り、しばらくはなにもする気にはなれなかったよ」
「それはお気の毒に」
「夏の間はすぐそこの、なんといったかな、百貨店みたいなところで時間を潰していたよ。電気代の節約も兼ねてね」
数年前、隣町にオープンしたショッピングモールのことを言っているらしい。フードコート以外にも休憩用の椅子がふんだんに置かれている施設で、夜十時の閉店間際になっても休んでいる老人をよく見かける。空調は適切で飲食にも困ることはないから、暑気からの避難場所としては最適だろう。
「同じような境遇の年寄りが話しかけてくるのには閉口するが、居場所を変えれば問題ない。なにしろ広いからな」
人が恋しいくせに、人間嫌いでもあるらしい。自分との奇妙な共通点にちょっとだけ笑った。と同時に、一つの疑問が湧いた。
「さっきは、夜露に濡れたから乾かしていたとおっしゃいました。お一人で観測されていたんですか? それに、通り雨は大丈夫だったんですか?」
皺の奥に落ち込んだ老人の目が輝いた。深入りしないと決めたばかりでもうこれだ。気になることがあると確かめずにはいられない。困った性格と後悔しても、もう遅かった。
「このあたりは降らんかったよ。それに昨夜は、どうしても見たい星があってね」
「星……恒星ですか?」
「そう。もうすぐ見られなくなるもんでね」
どんな星か知りたいだろう、という顔で顔を寄せてくる。
おっと、あまり近づかないで。
恒星とは、同じ場所でずっと輝き続けるから恒星と名がついたものだ。天文学にはとんと縁のない身でも、それくらいは知っている。
ただ永遠に輝いているわけではなく、どの恒星にも寿命というものがあって、いつかは消えゆく運命であることも。そういう意味だろうか。
次回更新は6月12日(金)、11時の予定です。
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