【前回の記事を読む】野球ボールが人の敷地へ… おじいさんに呼び出され、弁償を覚悟していると、彼の口からまさかの一言が…
ホームランとフォーマルハウト
会話は噛み合わなくてもじれったさは感じない。利害関係のない相手だからか、男性を感じさせない高齢だからなのか、理由は判然としないものの居心地が悪いとは思わなかった。
「あの、天体観測はご趣味で?」
庭に目を転じて話題を振った。話がこちらのプライベートに向かう前に流れを変えたかったからだ。この話題なら、きっと聞き役に徹することができるだろう。
「ああ、天気のいい夜は時々ね。観測なんて御大層なもんじゃない。ワシは〈観る〉専門だよ」
「それだけ?」
「ばかにしたもんじゃないよ。これほどの口径になると、星雲や星団なんかは、小望遠鏡で写した写真くらいには見えるもんだ。月などは毎日見ていても飽きないよ」
「はあ、そうですか」
「本体がでかい割に、架台はシンプルだろう? ドブソニアン式といって、観望に特化した、要するに経緯台式望遠鏡だよ。だから写真には不向きだ。しかし、これでもワシには過ぎた高性能だと思っとるよ」
「はあ、なるほど」
いい感じだ。相手の話題に終始すれば、適当に相槌を打つだけでいいし、余計なことを考えなくて済む。話好きらしいのも好都合だった。
もっともらしく頷いて、頃合いをみて辞去することにしよう。
「こんな庭に望遠鏡。それも、ど真ん中だ。妙な取り合わせだと思わんかね」
「ええ、まあ」