【前回記事を読む】「野球で日本がアメリカを負かすなんて…夢のようだ。」大正・昭和は、アメリカに「追いつけ追い越せ」が合言葉だった。

第2章 M&Aの光と闇~謀略と裏切り 二〇一六年

浪華電産に黒船来襲

「大山、浪華電産のDDチームに入れ」。

諭(さとる)が勤めるMAL法律事務所のパートナーからそう言い渡されたのは二〇一六年春のことだった。

「はい!」と威勢よく答えたのは、世間の耳目を集めている案件だったことと、入所三年にして初めて大きなM&A案件の末席に加わる興奮からだ。

しかも秋には明日香との結婚を控えている。そのモチベーションがいやでも諭のギアを一段も二段も上げる。

DDはデューデリジェンス、資産査定を指す。

法務DDは企業経営状況を調査する。財務の専門家と協働して、買収する価値があるかどうか、いざ買ってみたら思わぬ負債やリスクを抱えていないか目を光らせる。

諭たちも買われる側の浪華電産の意向に沿って、売ろうとする資産や事業を精査しなければならない。

「家電部門は赤字だ。事業を切り離し売却すべきである。同時に海外事業を大幅に縮小する。五千人削減し、今期中に黒字転換することを求める」。

こんな趣旨の経営刷新案が浪華電産に届いたのは二〇一六年の株主総会を控えた五月のことだった。

送ってきたのは、浪華の発行した株式の三%を買い集めたアメリカのファンド「コンドル・パートナーズ」である。

ロジャーズCEO(最高経営責任者)は浪華に役員を送り込むことを提案してきた。黒船来襲に経営陣は戸惑い、怒り、慌てふためく。

「コンドル? ハゲタカじゃないのか? 話にならん。そんな脅しは無視しろ」

「たかが三%じゃないか。うちには安定株主や銀行がついている。経営の屋台骨は微動だにせん」。

急きょ開いた役員会では喧々囂々(けんけんごうごう)、ときに怒号も渦巻く。最若手の取締役経営企画室長はさすがに詳細を調べ上げていた。