【前回記事を読む】たった3%の持ち株で外資ファンドが5,000人の人員削減を要求……株主総会当日、役員たちが思い知らされた“本当の狙い”とは……

第2章 M&Aの光と闇~謀略と裏切り 二〇一六年

浪華電産に黒船来襲

現在の保有株式数は五%に達していないようだが、ほかのファンドと連携しているかどうか未知数。安定株主との協調、最大限の危機対応が必要――。こんな主旨の角田らのレポートが経営企画室長の手によって役員会の俎上(そじょう)に載ったのは総会の前日だった。

そして当日。コンドルの株主提案は容赦ない。事業損益が赤字続きの家電事業は売却すべし、と詳細な数字を並べ立てて鋭い舌鋒で切り込む。海外事業に矛先を向けると、投資に対するリターンが少ないと指摘して、資産を有効に使っていない実態を暴く。

そのたびに議長は、亀が甲羅に首をすくめるかのように、下を向くことしかできない。なかには、社長の失政に気づいていて、苦渋の表情を浮かべる役員も少なくない。だが、窮地に立ち至るまで社長に経営改革の声を挙げる役員はいなかった。諫言(かんげん)すれば直ちに左遷の憂き目を見た故事を熟知しているからだ。

「経費に大ナタを振るうしかない」とコンドル側株主提案のギアは一段上がった。まず、人員を五千人削減すること、経費を二〇%カットせよ、と言い放つ。浪華電産にコンドル陣営から取締役を三人派遣する、ここまでは想定内だった。

「変えるべきは企業風土、企業文化そのものだ」。最後に突き付けたのは微妙な変化球だった。歴代社長らが就いている相談役、顧問を全廃せよ、年功序列型の賃金体系をやめよ、成果主義に転換せよ、と居丈高に要求する。

十人を超す相談役や顧問の顔を思い浮かべ、さらには自らの行く末に思いを馳せたのか、議長は渋面(じゅうめん)を作る。しかし、株主総会には「まっとうな改革案だ。正論だ」と評価する空気が漂い始めた。

あれこれ言い逃れをしようとしていた議長は「ご指摘は真摯に受け止めまして、経営陣で検討させていただきたく」と、しどろもどろに口ごもる。

そのときだった。突然、大向こうから手を高々と挙げ、ナゾの株主が立ち上がった。

「当社も五%内外の株式を保有している。こちらからも役員と監査役を派遣したい。コンドルとあわせてプロキシーファイトを提案する」。想定外の隠し球。あらかじめ台本ができていたかのような絶妙な間合い。経営側にとってはまさに寝耳に水だった。壇上の役員は当惑を隠せない。私語を交わすが、打開策は浮かばない。