三山義夫という、やはりT市Bクラスの土建会社の社長で、その三年前、T市で連日新聞を賑わす、官製談合事件が起きた時、警察に引っ張られたものの、拘留期間中、とうとう何も言わなかったこの業界では伝説の二人の一人だった。

しかしもう一人が一切、本当に何も言わなかったのに対し、三山は、何を言われても一一、尤もらしい顔で弁解する。それで担当の警察官も一一調べてみるのだが、その度すべて嘘だと判明する。とうとう拘留期間をそれで押し通したという兵だった。

またある時、この県選出の、国務大臣を歴任した、大物の国会議員の大利根康信が選挙前に土木建設組合事務所を訪ねた際、理事長を差し置いて「ああやっちゃん」と始め、大利根を一人独占し、顰蹙を買ったりしていた。

三山が三億の借金を背負った時、社長が「野郎、さすがに参っているだろう」と、用件を見つけ、私に様子を見てくるように命じた。ところが訪ねて、ガラス戸を開けてみると、炬燵で「水戸黄門」見ながら、饅頭を食べていた。三山は「九ちゃんか」とニコニコしながら、私にもお茶と饅頭を勧めてくれたので、一緒に「水戸黄門」を炬燵で見たことがあった。

しかし、その日は様子が違った。喫茶店の二階に上がり、三人を見た瞬間、私の知らない、いかにも高そうなスーツに鼈甲の眼鏡をかけた、身長は百八十センチメートルを優に越えた社長より一回り大きく見える男に自然と目が行った。

二人ともいつもの傲岸不遜な感じがまるでなく、社長も三山も「いっちゃん、いっちゃん」と呼びながら、その男の顔色を伺いながら、話している様子だった。

二人は、大利根康信の娘婿が社長をしている、東京に本社を置く、巨大ゼネコン「K建設」が、最近、決まったT市役所庁舎新築工事に、義理の父親の威光で地元の建設業組合を適当にあしらって、工事の大方を独占しようとしていると、悲憤慷慨して訴えていた。

しかし「いっちゃん」は、二人を見ることもなく正面を向いたまま、詰まらなそうな顔で、オウとソウカと言って、二人の言い分を聞いているばかりだった。

社長が私を紹介しても、一瞬、ちらりと目を向けたが、アアと言って終わり。私は、何も言わない男に惹きつけられたのは初めてで、この場の結論はどうなるのかと聞き耳を立てていたら、二人が説き終わるのを待って、「いっちゃん」は、静かに一言。

「ずるい事をする奴は、ダメだよ」

私はなぜかすっかり感心してしまった。後で社長に聞くと、全国組織の反社会団体、紅葉会の総帥、統山一郎だった。それから、色々な人から「何も言わない」統山さんが、出てきただけでもめ事が解決した、というエピソードを聴くことになるのだが、中でも、会社の近くの建材屋の梅山社長の話は、面白かった。

次回更新は6月8日(月)、11時の予定です。

 

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